これは、私が高校一年の夏のことです。
私は当時、中学・高校と演劇部に所属していて、
夏の演劇祭を目前に毎日のように練習をしていました。
その日も練習が終わり、帰ろうと駐輪場に向かうと、
駐輪場の近くに背の高い男性が立っていました。
私は用務員さんかなと思い、男性に会釈をすると、そのまま自転車に乗って家に帰りました。
次の日、部活を終えていつものように駐輪場に向かうとまた、
昨日と同じ場所にその男性が立っていました。
私はまた、昨日と同じく会釈をして自転車に乗ろうとすると…
「えっ!?」
さっきまで駐輪場の近くにいた男性が、いつの間にか、私のすぐそばに立っていたのです。
男性は青白い顔でニヤリと笑うと、低い声で…
「君…おじさんが見えるのかい…?」
私は怖くなり、夢中で首を横に振りました。
すると男性はますますニヤリと笑い、
「嘘をついてはいけないよ…?見えているんだろう…?」
私は怖くて泣きそうになりながらも、首を横に振り続けました。
男性はニヤニヤと不気味に笑いながら、青白い手をそっと私に向けて伸ばし始めました。
私は金縛りに遭ったように動けませんでした。
しかし次の瞬間、男性は手を弾かれたように押さえると後退り、
私を睨みつけるように見ながら消えていきました。
私は一気に体中の力が抜け、その場に座り込みました。
その後、無事に自転車に乗って帰ることが出来ました。
そしてその男性の姿を見ることは、二度とありませんでした。