霊とは思い(執念)の塊なのではないのでしょうかと思ったお話です。
18年前一番上の兄が社会人として新しい土地で生活し始めた頃です。
学校から帰ると母親が興奮した様子で私に話してくれました。
母親の話によると、美容室を予約していたので車で向かってる途中、
家の近くの大きな国道で若い女性が一人でヒッチハイクをしていたそうです。
母は時間に余裕を持っていたため、また女性同士だからと手をあげていた女性のもとに車を止めました。
女性は車に乗ると、
「近くなんですが行きたいところがあるので乗せてもらえますか?」
と言い、地区を聞くと私たちの住んでいる地区でしたので、乗せることにしたそうです。
その女性が案内するまま車を走らせていましたが、なかなか目的地に着きません。
それどころか母はある事に気づいたのでした。
なんと車は違うルートで行ったり来たりと我が家のまわりを走っていたのです。
だんだんと恐ろしくなってきた母は、
「もう一度聞くけど、どこに行きたいんだっけ?」
と言うと唐突に、
「ゆうき君のお母さんですよね?最初の場所で降ろしてください」
と、女性は表情なく言ったそうです。母は一瞬硬直しました。
「ゆうき君」とは、1番上の兄の名前だったからです。
ですが、たまたま兄の知り合いだったのかと納得し、母は最初に乗せた国道へ戻りました。
ハザードランプをつけるとすぐに女性は
「私もゆうき君と同じ名前なんです。久しぶりに会いたい。ありがとうございました」
と言い、すぐに車を降りたそうです。
母ははっとしました。
(あの子、車道側から降りちゃった!)
すぐに周りを見渡しましたが、すでにどこにも女性はいなかったそうです。
その話を聞いて、不思議な偶然もあるのだな、と思いましたが、
次の日、思わぬ真実を突きつけられたのです。
私たちの家に、一通の葉書が届いたのです。
文字しか書いてない機械的でシンプルな葉書に私は興味もなく、読まずに母に渡しました。
葉書を読んでいた母は急に動揺し、
「え、嘘でしょ、なんで?」
とぶつぶつ言うのです。
私は「なんてかいてあるの?」と聞くと、母は大きな声で、
「昨日の、兄ちゃんと同じ名前の子、死んだんだって!」
と叫ぶように言いました。
その機械的でシンプルな葉書には、兄と同じ名前の子の訃報を知らせるものだったのです。
すぐに離れた兄に電話をすると、兄はすぐに誰かわかったそうです。
兄は学生時代かなり女性にモテてていて、知らない顔の女性が玄関に並んでいたのはよくある事でした。
私も小さい頃、確かに兄と同じ名前のお姉さんがいたな、と思い出しました。
兄と同じ名前のそのお姉さんは、恥ずかしがって兄に話かけることは出来ず、
小さな妹の私に話かけていたのです。
好きだった人に最期のあいさつに来たのでしょうか。
死んでしまった後も、会いたいと言う強い思いがあった彼女にせめて兄に会わせてあげたかったな、と、
子供ながらに少しせつなくなってしまった事を覚えています。