写真

『みんなカッコいいポーズ決めるんだよ?はい、いきま〜す。1…、2…、3…、、あ、、カウントアップしちった(笑)まぁ、いいか。』

パシャ。

フラッシュを焚かれたその瞬間、異常な寒気で全身に鳥肌が立ったのを、今でも鮮明に覚えている。

それは、約10年前の東京、都内某トンネル。

その場所は昭和39年の東京オリンピック開催にともない、丘の上のお寺と墓地の移動の話があったにも関わらず、何故かそのまま道を開拓させ、その寺と墓地は今現在もトンネル上部に廃墟として残り続けていると言う、都内有数のミステリースポットである。

当時、俺たちオートバイ仲間は、その日深夜までツーリングに夢中になり、たまたまこの某トンネルの近くを通りかかったのがきっかけで、決して心霊スポット巡りをしていたわけではない。

ところが、仲間の1人が、今思い返せば、何かに引き寄せられるかの様に、この場所で集合写真を撮ろうと、提案したのだった。

時刻は確か、午前3時を過ぎていたと思う。普段は日本青年館や、ビクタースタジオ等、サラリーマンや業界人で賑わう、せわしない通りも、この時間となると、車1台通らないさみしい道路に、そのトンネルはぽっかりと口を開けていた。。

俺たちは人っ子1人通らないそのトンネルを前に、自慢のオートバイを並べ、トンネルの入り口を背に、想い想いのポーズをとった。

左から、J(俺)、Y、K、N、O、S子の計6人が、一時道路を封鎖する形で写真に映った。

この写真が、のちに懐かしく、少し気恥ずかしい、思い出の1枚になる。。。予定だった。。

異変が起きたのは、この日から3日後、デジカメの持ち主であるYが、メンバーに写真を渡した時だった。

お調子者のOが、『Jの左側のトンネルの壁面さ、何か白いモヤが映ってねぇ??いや〜これ心霊写真ってヤツだよ絶対!!』とはしゃいでいる。

その時の俺は、2週間後に控えた念願のレーサーのプロテストの事で、心身共にいっぱいいっぱいで、Oには申し訳なかったが、一緒にはしゃいでいる余裕など、無かった。

撮影をしてから一週間後の事だ。

Nに続き、Yからも立て続けに連絡があった。

Nはともかく、普段から真面目で冗談一つ言わないYから

『この間の写真、見れるか?僕の手元にある写真、トンネル壁面のモヤ、この前と変わっていないか?Jのはどうだ??』

俺は嫌な予感がして、自分の写真を手にした。

『これさ、女の人が逆さまになっていないか?』Yが言う。

俺は写真を逆さにして、背筋が凍りついた。

白いモヤだと思っていたそのモノは、今、写真の中で上下逆さになった女性の顔になっている。長い髪が、今にも地面に着きそうだ。目は閉じている様に見える。

もう一つ、決定的な変化があった。当時、左隅のトンネル壁面に映っていたそれは、1番左に映る俺に近づいて来ているのだ。

俺はこの時から、何かのまがまがしい嫌な気配を感じるのと共に、異常な耳鳴りと頭痛に悩まされ、もはや安眠の場は無くなっていた。

プロテスト前日、今度は、S子から電話があった。

S子は受話器の向こうで泣きじゃくっている。何を言っているのか理解に苦しんだが、予想した通り、例の写真の事だった。

正直、もう二度と見たく無かった。

だが、俺以外の何かが、引き出しの奥底にわざと追いやったハズのその写真を、『見ろ』と強く命じている様だった。

俺の顔が、無くなっていた。その場所には、逆さにになった女性の顔が、重なっていた。

目と口を、大きく開いていた。

しかしその穴と言う穴は、まるでボールペンで塗り潰した様に、真っ黒になっていた…。。

気付けば俺は病院のベッドに居た。

プロテストのレースの最中の事故だった。レースは中断。俺は、頭蓋骨骨折と鎖骨開放骨折の重傷だった。

こうして、追い続けて来た俺の夢は、儚く散った。

その後、写真の仲間達とは疎遠となった。

しかし、2年ほど前、ひょんな事から、S子と連絡を取るきっかけがあった。8年前のあの電話、なぜあんなに泣いて居たのか。トラウマとなった俺の記憶を払拭するためにも、勇気を持って聞いてみた。

ところが、S子はあの日あの時、俺への連絡はしていないと言う。

聞かなければ良かった。一体、あの電話の相手は誰だったのか。あの写真の女と関係があるのか。あの女は、俺に何かの警告をしたかったのか。

それとも…。。。

俺は、未だに自分の顔が映る写真を見れない。

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