教室の穴漁り

 高校時代の友達から聞いた話。

 彼が小学五年生の頃、休憩時間に友達との遊びの一つに『穴漁り』があった。
田舎の古い校舎で五年生教室の床板には一箇所大きな隙間というか穴が空いていた。
 人の脚がはまるほどのものではないが、消しゴムなどの小物が中に落ちることもある床穴だった。
 ガムテープの粘着面を外側に丸めて、教室にある長い物差しの先端にくっつける。それを床穴に突っ込み宝探しをするのが穴漁りだった。

 その日は珍しく物差しの先端にくっついた“獲物”が穴に引っかかり抜けなかった。
「今日のは大物だな」などと友達と盛り上がり、手をねじ込んだりしながらようやく取り出してみると出てきたのは古い新聞だった。
 大物で期待も高かっただけあり、いつもより多いギャラリーは一同ガッカリして数人帰っていった。
 しかしせっかく苦労して取り出したのだからと、この日のニュースに何か面白いことがないか残った友達に囲まれ中心で紙面をめくる。
 新聞の日付は『昭和○○年△△月□□日』だった。
 古臭くてよく言葉の意味も分からないようなことばかりの見出しを流し読みしながらページを進めると、1ページ何かでベッタリと張り付いて開けないページがあった。
 無性にそのページが気になり、破れないよう慎重に左右に力をかけていくとパリパリと少しずつ開いてきた。
 燻んだ茶色っぽいシミで張り付いているようだ。
 ある程度開いたところでバサっと一気に剥がれ、ページが開いた。
「おおっ」という歓声の直後、全員が凍りついた。

 開いたページの中央いっぱいに燻んだ黒茶色のシミが広がり、くっきりと人間の苦悶の顔が浮き上がっていた。
 少し遅れてこのシミは血だと思い至った瞬間に、彼は新聞を投げ捨てギャラリーは蜘蛛の子を散らすように逃げ教室は騒ぎになった。
 戻ってきた教師に事情を説明すると、教師は新聞を持ち去り次の授業は自習となったが、教師から新聞について語られることはなかった。
 夜、親に教室であったことを話すと「ふうん、そういえば」と、昔その教室で生徒の自殺があり関係があるかもねと冗談交じりに教えてくれた。

 後日、友達と町の図書館で調べてみると、『昭和○○年△△月□□日』に同教室でいじめを苦にした生徒の自殺があったということがわかった。
 そして、当時の卒業アルバムも見つけ自殺したと思われる生徒の顔写真をみて息を飲んだ。
 あの顔だ。

 特にその後事故だの祟りだのといったことはない。
 しかしなぜそんなものが教室の床下から出てきたのだろうか。

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