霊感らしき物が何もなかった頃の話。
私は呉服店で働いていた。
仏事用品コーナーの白い数珠にハタキを掛けていた時、数珠にヒビが入っているのを見つけた。
あれ?割れてる。不良品だ。
何も疑わず 店長に報告し、返品してもらう事になった。
次の日、数珠にハタキをかけると、 目の前で数珠にピキッとヒビが入った。
え?何?と思った。
私はすぐに上司には報告せずに、様子を見る事にした。 胸騒ぎがしたし、二回目だったから。
自分が壊したのか確かめようと思ったのだ。
次の日、ハタキを持って数珠の所に行った。
ヒビの入っている場所を確かめ、私はハタキをかけた。
その後じーっと眺めていると、ピキッとヒビが入った。
ヤバいと思った。
これは、私が原因だと確信した。
私は店長の所に数珠を持って行き不良品である事を報告した。
店長は「また?縁起が悪いね。」と、苦笑いしながら返品手続きをしてくれた。
絶対に何かある。
数珠にヒビが入る位だもの。
このままじゃ安心して働けないし、もっと酷い事が起こるかもしれない。
私が婆ちゃんに連れられて行っていた【ほうえん様】は亡くなっていた。
私は知人や友人に【ほうえん様】を知らないか聞いて回った。
(ほうえん様=拝み屋、霊能者、霊媒師)
知り合いから【龍神様】という良く当たる霊能者の様な方の話を聞き、龍神様に予約をとった。
予約当日、時間通りに龍神様の家に行くと、家の裏から農家のおばちゃんが来た。
「こんにちは」私が挨拶をすると、 「いらっしゃい。今着替えるから待ってて」と家に通された。
六畳間に座布団が敷いてあった。
暫くそこで待っていると「こちらにどうぞ」と、巫女の衣装に着替えたおばちゃんが、奥の部屋に通してくれた。
奥の部屋には祭壇があり、神様が祀ってあった。 私は祭壇の前に座り、数珠が割れた話をした。
おばちゃんは「うんうん」と聞いてくれた。 名前と生年月日のメモをとり祭壇に置いた。
霊視する様に黙って私を暫く見ると、おばちゃんは顔をしかめて言った。
「あなたの上に、人がいっぱい。人の上に人が、折り重なって山になってる。」 そういって、両手を広げて山を作って見せた。
「え?私、大丈夫なんですか?」おもわず聞いた。
おばちゃんは 「大丈夫じゃないね。えーっとね、 組み体操の一番下の人みたいになってる。」 と言った
「えー!?なんにもかんじないんですけど・・いるんですね。」生々しい想像が働き私は青くなった。
「とにかく、今から元の場所に帰ってもらうから。」
おばちゃんは、龍神様に祝詞をあげはじめた。
途中に休憩をはさみ、二回に分けて御払いをしてくれた。
御払いが終わると
「ちゃんと帰ってくれたから良かった。 貴方、優しくて欲がないから、頼られたんだよ。出来ない事や嫌な事は、ハッキリ断りなさい。でないと、また頼られるよ。」
と言われた。
欲とは【欲深い】みたいな意味ではなく、 生きるエネルギーだそうだ。
確かに《普通が一番》がモットーでインドア派の私は、 エネルギーが弱いかったかもしれない。
「あの、私に憑いてた人達は、元の場所にもどったんですか?」
「もどったよ。」
「元の場所に居るんですか?」
「いる。同じ人が付かない様に御守りね」 と、御守りをもらった。
私に憑いていた霊は、元の場所に戻った。
成仏もせず、迷ったままで、居場所もない。
元の場所にもどった彼等は、 新しく憑いて行く人を待っている。