誰でも一度は、子供の頃に
「嘘をつくな」
「嘘をつくと、地獄の閻魔様に舌を抜かれる」
などと、言われたことがありますよね。
私の家でも、よく言われていましたし、
そのおかげか人を傷つけたりするような嘘や話はしなくなりました。
しかし、私が小学校高学年に上がった頃、祖母からこんな話をしてもらいました。
『ワシがまだお前くらいの歳だった頃、
嘘をついては周りの人を困らせていた男が居たんだよ。
毎日毎日、やれ隣の家が火事だとか、泥棒に入られたなどと言っていてね。
ところがある日突然、その男の姿が見えなくなってしまったんだよ。
迷惑な男だけれど、それでも居ないと心配になるからね、
みんなで探して歩いたんだけど、とうとう男は見つからなかった。
でもある日、その男が見つかったんだよ。
どこで見つかったかって? お前の通っている小学校の裏に崖があるだろう?
そこで見つかったんだよ』
祖母の話は、大体こんな感じの内容でした。
男のその後のことを聞いてみると、男はいつものように嘘をついては面白がっていると、
大きな鎌を持った人に追いかけられていたというのです。
その人は顔をお面のような物で隠していた以外は特に変わったところは無かったらしいのですが、
お面から覗く目は不気味に光っていたそうです。
男はそのあまりの怖さに夢中で逃げていくうちに、例の崖の下に着いたそうなのです。
それ以降、男は今までの事が嘘のように真面目で働き者になったそうです。
祖母は続けてこう話しました。
『だからね、深央……。
お前も嘘をついてはいけないよ』
私はゆっくりと頷くと、祖母の背後に立っている大きな鎌を振り上げている人を見上げた…。