太陽は西の海に沈みかけている。
私は、砂浜で娘と手を繋ぎそれを見ていた。
波打ち際に、瓶が一つ落ちている。
一人の美しい女が、瓶に向かって歩いている。
「お父さん。あの人はなんで泣いてるの?」
「悲しいことがあったのさ。」
私がそう答えると、娘は立て続けに迫ってきた。
「お父さん。あの人の羽根、どうして片方しかないの?」
天使が生まれた日。世界中の人がそれを喜んだ。
人が生み出した天使は、子のいない夫婦に預けられ、人と同じように育てられた。
高潔な魂をもつ天使は、誰よりも清く優しく育った。
世界中の人が、暖かい目で天使の成長を見守っていた。
しかし、天使を生み出すために、多くの犠牲を払った。
天使になれなかった実験体達。
彼女達は堕天使と呼ばれるようになった。
「彼女はね、罰を受けたんだ。」
「罰?悪いことをしたの?」
「人に恋をしてしまったんだ。」
「いけないことなの?」
「いけないことさ。」
ある研究員が、堕天使の一人と恋に堕ちた。
研究室から逃げ出した彼らは、すぐに捕まった。男は処刑され、遺体は灰になった。
堕天使は、片方の羽根を切り落とされ、二度と飛べなくなった。
「かわいそうだよ。だって、恋はステキなことだってお母さんから聞いたよ。」
あの女…余計なことを。
男の亡骸が詰まった瓶を堕天使が抱きしめた時、太陽が海に沈んだ。
海辺に、銃声が鳴り響いた。
見せしめの処刑だった。
背後から撃たれ、堕天使は膝から崩れ落ちた。
それを見ていた、娘の中の何かが壊れた。
「先生、遺体はどのようになさいますか。」
「火葬して、同じ瓶に入れてやれ。おい、そこのお前。車のエンジンをかけろ。今夜は少し、冷えるからな。」
背後にいた黒服達は、その場から去って行った。
二人きりになり、娘を見ると
表情を失い、人形のように立ち尽くしていた。
私はその姿を見て、身体中が震えるほどの興奮を覚えた。
天使が誕生して、5年。
彼女は誰よりも、美しい。
羽根を潰さぬよう、後ろからそっと抱きしめた。
そう、これは見せしめだ。
私が作り上げた本物の天使。
耳元に口を寄せ、私はそっと囁いた。
「ずっと、お父さんが守ってあげるよ。」