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街灯が消えたら……

私の住んでいる市に、少し変わった通りがあります。
見た目はどこにでもあるような道幅も広く、両側に幅広のレンガ敷きの歩道がありました。
街路樹と街灯が等間隔にならび、暗くなっても明るい道でした。
そんな通りの近くに住む、Bさんという方から聞いた話です。

Bさんは毎晩10時近く、その道を愛犬と散歩をするのを日課にしていました。
その道の両脇はかなり大きい
「下水処理場」、「公園」、「工場」、「配送センター」などで
普通の民家は通り沿いにはなく、当然夜も深くなるとほとんど車も人も通行していませんでした。
その状況からか「節電のため」、夜10時になると国道までの直線の道の幾つもある街灯が、斉に消えます。
Bさんはそれを見るのが好きで、飼っている犬をお供に時間が合えば、そのミニブラックアウトを見に行っていました。
「なんかねー遠くの街灯まで、バッバッって消えて行くのを見ているとパニック映画のワンシーンに入り込んだようで面白いんだよ」
Bさんは「俺、オタクなんだな」と笑っていました。

ある日の事、いつものように愛犬を連れ、その歩道を歩いていました。
建物は灯りが消え、たまに車が通るだけでしたが、その道も途中で切れていて袋小路になっていました。
Bさん曰く、「下水処理場の為に作られた道」だそうです。
進行方向の左手には、その処理場の3mあろうかというかなり高い塀がしばらく続いています。
ふと気がつくと、脇道から出てきた一台のタクシーがハザードをつけながらBさんのかなり先で止まりました。
片や処理場、道の向こうはかなり広い人気のない配送センター。
住宅地は脇道に入らないとないので、Bさんは「変な所で降りるなぁ」と思ったそうです。
降りてきたのは男女の二人で、Bさんの進行方向に歩いて行きます。
ますますBさんの思考は「はてなマーク」でした。
カップルで遊べるようなお店は国道まで行かないとありません。
まあでもそういう事もあるかと気にせず歩いていると、前の二人の行動が次第に気になってきたそうです。
なぜなら女性は男性の横に並んだり、後ろに付いたり、前に回り込んだりとアグレッシブに動き、何かを言い続けています。
「何か・・・変なカップルだな」
けれど男の人は、何を言うわけでもなく、淡々と歩いていました。
女の動きが段々激しくなり、男の人の肩や手を掴んで話をしていました。
切れ切れに聞こえる「別れる」「あの女」の単語は二人の関係を容易に想像出来ます。
「ああ、だからこんな人気のない所で降りたんだ」
歩きながら話し合いをしようとしていたのだとBさんは思い、あまり近づかないようにゆっくりと歩いていました。

そしてその時、街灯の灯りがスッと消えて行きました。
(10時か・・・)
遠くの街灯まで黒い波が覆い隠すように、次々と消えて行きます。
いつもだったら、自分の中での一大イベントが、ケンカ中のカップルのおかげで台無しだと思ったそうです。
「まあ、しょうがない。帰るか」
足下にいる愛犬を見ると、じっと前方を見ています。
彼は座り込み、愛犬の視線を追い、凍り付きました。
彼女の体は何か白い靄のような物が体中に纏わり付き漂っていました。
けれどしゃがみこんで抱いている愛犬は、凝視しながら低く唸っています。
相変らず女の人は男性に纏わりついているのですが、
その白い煙は男性の肩や首や腰に絡みつき、覆い隠そうとしているように見えたそうです。

Bさんは跳ね上がる心臓を押さえながら、そーっと立ち上がり踵を返して、わざとゆっくり歩き始めました。
「めちゃくちゃ怖かったけど、不思議だよね。街灯が消える前は普通の女の人に見えたんだよねぇ」 と、Bさんは語っていました。
焦る気持ちを抑えながら段々早足になり、最後は走って逃げたそうです。
「いやーホント変なもの見たよ。前から聞いてはたんだけどさぁ」
え?と私は思い「前から」の意味を訪ねると、その地域は昭和初期のころまで大きな沼地だったそうです。
その沼はその当時から幽霊や化け物が出るとか殺人の死体遺棄があったとか噂があり、地元の人にも恐れられていたのですが、
戦後、公共事業で沼をつぶした後も長いこと上手く活用出来なかったようです。

「今もたまにだけど、幽霊目撃の噂が出てね。なんかさ、良くないモノが溜まっているような気がすんだよね」
Bさんは恐ろしそうに顔を歪ませました。
(下水処理場を中心に広い公園や、一般人には直接関係ない施設しかない地域。 やっぱり、人が住めない土地だからなのかな・・・)
私には、そんなふうに思えてなりません。

朗読: 怪談ロード倶楽部

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