集まる家

私の実家は新築の頃からいろんな音がする家でした。

今で言うラップ音は当たり前でその他に耳元で男の人のうなるような声がしたり、夜にはスリッパで階段を上がる音がしたり。
高校生の頃、友だちが試験勉強で泊まりに来た時には、
深夜2時過ぎ「パタンパタンパタン」と二階にスリッパでゆっくりと上って行く音を二人で聞き、
「聞こえたよね?!」と気のせいではない事を確信しました。

結婚して第一子を産んだ私は実家で産後を過ごしていました。
21時、我が子を寝かしつけに二階の寝室へ行きました。
残暑の厳しい年で踊場の窓を開け、寝室のドアも開け風通しを良くしながら娘に添い寝をしていると、
踊場の窓の外から、かすかに子どもをあやすような女性の声がしてきました。
童歌を口ずさんだり、笑ったり、話しかけたり。
それに答える子どものグズる様な声。
窓の外は畑を潰した後の原っぱになっていて、なかなか人が立ち寄るようなところではありません。
「こんな夜に子育てに奮闘して外まであやしに来てるんだ。大変だなっ」
と親近感さえわきました。
やがて子どもは機嫌良くなったのか、グズる声から、笑い声に変わっていました。
飛び切り甘える声。優しい母の笑い声。温かく幸せそうな声。
そのうち、我が子も眠りにつき、私は階下を片付けに戻りました。

そして次の日、21時。
娘を寝かしつけに二階の寝室へ。
昨夜と同じ、窓を開け放し、寝室のドアも大きく開けて娘に添い寝。
少しすると、また昨日と同じ様に童歌が。子どものグズる声。話しかける女性の声。笑い声…。
昨日よりはっきり聞こえてきます。
「今日も外か。大変だなぁ。」と私も一緒にその童歌のメロディを聞きながら娘の髪を撫で…その愛おしさに共感していました。

3日目、21時。
同じ様に娘を寝かしつけているとまた声が聞こえてきました。昨日よりもっと近くに。
そう、だんだん声は近づいて来ているのです。
「また今日も?毎晩?」
少しずつ言葉も聞き取れるようになって来ました。
「どうして?ダメでしょ?クスクス…」
私は少し怖く感じてきました。

四日目。踊場の窓を閉めました。ドアも閉めました。
前日よりもっとはっきり聞こえてきます。
窓のすぐ下?横?で声がする。
でもここは二階。私は娘を抱きしめたまま声が遠のくのをじっと待ちました。

五日目、声は外からではなく階下から聞こえます。
「近い。」
もう、それはこの世のモノではない。と気付いていました。
怖い!怖い!息づかいさえ聞きとられそうでスムーズに息が出来ない。
娘が声を出す度に「お願い、静かに」ようやく声が聞こえなくなり、私は階下へ下りる事すら出来ませんでした。

6日目。私は主人に実家に一緒に泊まってくれる様に頼みました。
以前から心霊体験の多い私に慣れている主人は深く聞く事もなく泊まりに来てくれました。
その日は一階の居間に22時まで主人と私、娘の3人で過ごしました。
娘は静かに寝息をたてています。
「もう大丈夫だろ、二階に行こう」
主人が言い、娘を抱いて先に階段を上って行きました。
後をついて階段の手すりに手をかけ、上ろうとすると「ケケケケケっ!」けたたましい女性の声がします。
女性は「どうして?どうして?」と何かに問いかけています。
昨夜までの優しい声とは違う。笑っているけど悲しい声。歌声すら悲しい。
主人を引き止め「行かないで!声が!」
主人は「何が?何も声なんか聞こえないよ」と。
するとまた「ルルルル…」歌声。
「ほらっ!また!」
「聞こえないよ?」
私にしか聞こえていない。こんなにはっきり聞こえてるのに。
そのまま二階へ行くといつもと変わらない部屋。

その後、数日主人に泊まってもらい、その後は声が聞こえる事はありませんでした。
あの日二階にそのまま娘と二人だけでいたら、あの声の主は部屋まで入って来たのでしょうか。
後日霊感の強い友だちが「貴女の家は通り道になってる」と言っていました。
また違う何かがやって来るかもしれません。
これは忘れられない私の心霊体験の一つです。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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