小さな鳥居

これは私が中学の修学旅行で体験した話です。
私の中学ではN県とK県に3泊4日で行くのですが、これは2連泊したN県での話です。

温泉でも有名なN県のホテルに宿泊しました。
夜に食事とお風呂も終え、就寝時間になったので各自部屋に戻ったのですが、
友達もいて楽しい夜、なかなか寝つく事ができるはずもありません。
私の部屋は4人部屋で恋バナや他愛のない話で盛り上がっていました。
夜中、先生が各部屋を見回りにくるので、
その時はみんなで息を殺して寝たフリをし、 またいなくなってから話しをしました。
深夜1時を回り私は眠たくなり、友人の話しの途中で寝てしまいました。

翌日も全員でN県を観光し、自由時間は部屋の4人で買い物をしたり昼ごはんも食べ過ごしました。
昼食の時、4人の友人の1人A子が
A子「今日の夜さ、みんなが寝静まったころに男子が遊びに来るんだって」
と言い、みんなでドキドキするー、とか先生にバレないかなーとか言って盛り上がっていました。
ホテルに戻り、お風呂、夕食を終え、また就寝時間になりました。
部屋のみんなでお菓子を食べながら、昨日に引き続き、恋バナや どうでもいいような話しをし、先生の見回りの時間がきました。
ガチャ、ジーーー、ガチャン トク、トク、トク
先生が部屋から遠のいていきます。
またみんなで話しを再開してると
トトトトトトトトッ ガチャ
男子D「おーい、起きてるかー?遊びにきたぞー」
と男子Dが言い、男子3人を連れ部屋の中へ入ってきました。
友人A「先生にはバレなかった?こっちはみんな起きてるよ」 と言い、
みんなガバッと布団から体を起こし、談笑へと突入しました。
お菓子を食べながら学校での話し、恋バナとすごく盛り上がりました。

男子が来て1時間を過ぎ、話しのネタが尽きてきたので、怖い話しをしようって事になりました。
みんな聞いたことのある話し、創作した話しをひとりずつしながら
「こわ〜」
「今のは結末わかった」
「もうひとりでトイレ行けない」
と盛り上がっていたのです。
それぞれの怖い話が一周したところで、 男子Dが
男子D「さすがに明日も早いし俺たちも帰るか」
他男子「そーだな」
女子A「私たちも寝よっか」
となり、お開きムードになった時です。
男子Dが
男子D「あっ!そういえば、寝る前に部屋の窓から外の森を見てみ。 森の中に真っ赤な小さい鳥居が見えるんだけど、 それが不気味だって他のヤツら何人か言ってたよ」
と言い、それじゃあって男子は帰って行きました。
私たち4人はさっきの怖い話をしたばかりなのもあり、
トイレに2人で行ったり、もう寝ようとしてる子もいて、誰も窓には行きませんでした。

女子4人「おやすみ〜」
みんなが寝る中、私はなかなか寝付く事ができず、 さっきの鳥居の事が気になってきました。
しばらくした後に
私「ねぇ、誰かまだ起きてる?」
と部屋の中に問いかけると
友人A「なにー、まだ寝れないの?」 と返事が来ました。
私は、
私「まだ全然眠たくない、私さっきの鳥居見てみるけど、 ひとりじゃ怖いからAも一緒に見ない?」
A「めんどくさいし、もう眠たいからヤダ」
私「じゃぁ少しだけ起きててくれる?すぐに見てから戻るから」
A「それならいいけどー、早く済ませてね。あと寝てる子もいるから起こさないように」
私「わかったー、静かにしまーす」
そう言って、ソーッと布団か出て、私は窓のあるベランダに向かいました。

ベランダの手前にはテーブルが1つと椅子が2脚あり、その先に窓、さらに外に出たらベランダとなっていました。
私はテーブルと椅子を避け、窓に近づき外を見つめました。
大きな山があり、目を凝らすと大小様々な木が風に揺れています。
ビューーッ と窓越しに風の音が聞こえてきます。
私は目を凝らし森の中にあると聞いた鳥居を探していましたが見つかりません。
すると布団の方から
A子「鳥居見えたー?」 と聞いてきます。
私「まだ見つけきれてなーい、あっ!あった」
山の中腹あたりに、ポツンとすごく小さな鳥居が立っています。
真っ暗な山の中に真っ赤な鳥居。
すごく浮いているように見えて、 評判どおり不気味な雰囲気を纏っています。
私「気持ちわる〜」
そう呟き、みんなが寝ている布団に振り返った時、それが目の前にいました。
ベランダ手前のテーブルと椅子のある空間。
そのテーブルの上に 顔は般若
(能とかで出てくる鬼?の怒っている表情のモノ)、
体は昔の陰陽師とかが来てそうな服。
左手には尺(木の板みたいなもの)、右手は袖で隠れて見えません。
その般若がテーブルに腰掛け、体は動いていないのですが、目がバッチリ私と合っています。
私「ひっ」 と恐怖のあまり声が出そうになったのですが、 何故か声を出してはいけない気がしたのです。 私はそこで棒立ち。
目線もしっかりと合ったまま逸らすことが出来ずにいました。

友人A「見えたんなら早く戻ってきなよー、もう寝るよー」 と声がします。
ですが私は返事ができません。
時間にして30秒あったかどうかだと思いますが、 すごく長い時間そこに立っている気がしてきました。
私は全身に汗をかき、その後腰か抜けて座り込みました。
般若の姿をしたものは、まだ私たちを見つめてきます。
こわい、こわい、けどみんなのところに行けばなんとか。
そう思い、勇気を出して目線を逸らし、四つん這いでゆっくり動き出しました。
私の目の前には般若の足であろう、足袋が見えています。
その横には椅子もあるのですが、 どこにも触れないよう、慎重に進みます。
スーッ スーッ
本当に少しずつ進んでいましたが、 その間も般若姿からの視線は重く伝わってきます。
スーッ スーッ
これまで般若姿のなにかを見てしまってから、 時間にして3分経っているかどうかだと思います。
ようやくテーブルの側面を越え、 3、4メートル目の先には友人達の布団が見えています。
もうすこしでみんなのところにいける、 と思うのと同時に、般若の視線が弱まった気がしました。
もしかして般若は窓の方に体が向いたままで、こちら側(部屋の中側)は見えてないのかも。 と思い、 私は何故か般若の右後ろ側を見上げてしまいました。
ニィーー
私が目線を上げると、 般若の後頭部の部分に女性の般若(笑っている顔)があり、 またしてもバッチリ目が合ってしまいました。
ニィーーー
笑った表情でジーーっと見てきます。
私は硬直したまま息をするのを忘れてしまっていたのか、 そのまま気絶しました。

「おい、大丈夫か!起きろ!おいっ」
しばらくして、遠くの方から声が聞こえ私は意識が戻りました。
目の前には先生が2人と部屋の友人3人。
部屋の照明が明るく、思わずウッとなっていました。
先生「お前が突然倒れたって聞いたからきたんだ、大丈夫か?」
私「変なのがあそこにいました」
私はベランダ手前のテーブルを指差します。
先生「俺には何も見えない、けど怖い思いをしたんだな、 今日は先生たちの部屋で寝なさい」
私はコクリと頷き、友人たちに
私「驚かせてゴメンね」 と言い部屋を出ました。
先生の部屋に行っても眠ることが出来ず、 私は朝まで起きていたのと、翌朝から体調が悪くなり、 3日目以降の修学旅行はバスの中で先生と待機していました。

これが私の修学旅行での体験談です。
地元に帰り、中学を卒業し、高校へ進学。
そして高校も無事に卒業し、私は地元を離れて この話も少しずつ忘れていました。
先日、職場の昼休みに先輩が 俺の地元の怖い話してやるって言われて話した事か あのホテルの私の体験と似た話しだったんです。
(小さな鳥居、般若がいる。など)
それは先輩が以前、勤めていた会社の後輩の実体験だそうです。
先輩はN県出身なので、ホテルのことを聞くと、 数年前に潰れて今はホテル自体がないのだと。
なんで幽霊とかではなく、あんな妖怪? みたいなものが見えたのかは分かりませんが、
私にはそれ以前も以後も そういった霊体験はしたことがありません。
そのホテルは潰れたそうですが、ホテルがあった一帯が有名な温泉街になっているので、
みなさんも旅行先で、小さな鳥居が見えるという話しを聞いた時は、 この話を思い出してみてください。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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