まち針で止めた写真

思えばここから私の心霊体験が始まりました。

あれは私が8歳の時でした。
父と母の両方がそれぞれ単身赴任する事になり、
祖母を実家に残し、私と姉は母親と共に母親の新しい職場の町へ、引っ越す事になりました。
親子三人の新居はボロボロの古い貸家でしたが、
まだ幼い私は住んだことのない土地と新しい学校にワクワクしていました。

木造のガタガタする玄関を開け、真っ先に家の中に入ると早速探検が始まりました。
歩く度にギシギシ音のする廊下、少しの風でガタガタと音がする大きな窓。
暗い物置。荷物を入れる前にまず掃除から始まり、小さいながらもなんとなく私も手伝ってるつもりでした。
居間の拭き掃除をしながら、なぜかふすまに、まち針で写真が張り付けてあります。
それは白黒の写真で大きく1羽のヒヨコが写っていました。
あの頃は鶏を、飼っている家が多く、大屋さんがそれを写したのでは?と母が言っていました。
私は何も考えずに「取るよ」と、取ってしまいました。
母が「あっ!」と小さく声を上げましたが、その後何も言わないので、私も気にしませんでした。

その夜、玄関の方でけたたましい鳥の声が…。
「ビー!!コッケ-!!ビビビビ!」
争っている声でした。
明らかに家の中から聞こえ、ただ起きて見に行く気にもならず朝を迎えました。
目覚めて、「写真のせいで鳥の夢見ちゃった」くらいに思っていたら、
母と姉が「なつこのおかげで鳥の声がうるさくて眠れなかったじゃない」と朝一番に、私を叱ってきました。
「そうよ、なつこがあの写真外しちゃうから !」
あの鳥の声は夢じゃなかったんた。とぼんやり思いながら、まだスッキリ目覚めていない頭で
「何で私、怒られるの?写真外して何が悪いの?」と頭の中で、ぐるぐると考え、顔を洗いに台所へ向かいました。

途中、玄関を通り驚きました。
玄関には上がりまで届きそうな白い羽。羽。羽。
「お母さん!」慌てて母を呼びました。
母も驚いていましたが、その後、
「なつこ、あの写真はきっと、大屋さんが可愛がってた鳥の写真だと思うよ。
死んでからも写真飾ってたんだと思うんだ。
だから、断る前に取ったりするもんじゃないよ」と教えられました。
すでに、写真もサッサと捨ててしまった私は、罪悪感でいっぱいでした。

それから数日、毎晩鳥の声と、玄関の羽の散乱は続きました。
日に日に羽は少なくなり、散乱する事も鳥の声もなくなりました。
それから、しばらくして、向かえに住んでいる大屋さんが現れ、一人で留守していた私に、
「野良猫を見つけたらすぐにお爺さんに教えるんだよ。あいつらは可愛い鶏を襲う悪いやつらだから」と言って帰って行きました。
あの写真の鳥は猫に襲われたのかな?と思いながら、猫を見つけた時の大屋さんの方が怖く感じました。
勿論、大屋さんには猫を見かけても絶対知らせませんでした。

これが最初の私の心霊体験です。
鶏はよく食べたりしてるのに、こんな風に死んでからも魂が残る?のは今でも不思議に感じます。
特別に愛情を受けるとまた違うのかもしれませんね。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ


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