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忘れられない色

今日は、私が専門学校に通っていた時に聴いた話をしようと思います。

その学校の学長は面白い方で、授業の始めに『最近あった嬉しかったこと』や『人生の中で一番驚いたこと』などを
クラスの複数人に話してもらう時間を必ず設ける方でした。
私たちはそれを少し面倒に感じながらも、クラスメイトの考え方に驚いたり共感したりと、どこか楽しんでいた雰囲気もありました。

そんなある日のテーマは『自分の身に起きた思い出深い出来事』でした。
そのテーマについて話すように、ひとりの男子生徒が指名されました。
その男子生徒を仮にSくんとします。
Sくんはお調子者ですが人当たりもよく、誰とでも仲良くなれるようなタイプでした。
そんなSくんがいつもとは違い、急に神妙な面持ちになり、
『今はもう見えないんだけど』と前置きをして話し始めました。

Sくんは小学校低学年まで周りの人にオーラのようなものが見えていたそうです。
ある人は赤とオレンジが混ざったような色、ある人は青みがかった紫と、その人によって色は様々だったようです。
幼い頃のSくんは周りの人にも同じものが見えていると思い、家族にすらこの話をしたことはなかったといいます。
ですが、ある日自分の叔父さんと久しぶりにあったときに叔父さんの周りのオーラが黒いことに気がつきました。
まるでおじさんだけがこの世界から切り取られたような、そんな暗闇のような色だったそうです。
初めて黒いオーラを見たこともあり、Sくんは恐怖を覚えて誰にも黒いオーラが見えたことをを話せないでいました。
二週間後、元気だった叔父さんが急に亡くなったことを知らされました。
末期の癌で、発見が遅れて手の施しようがなかったそうです。
そこで初めてSくんはきっとあの黒いオーラは叔父さんの死を意味していたんだと気がつきました。
その出来事以来、オーラは徐々に見えなくなってゆき、今では全然見えないんだと言ってその話は締め括られました。

いつもとは違った雰囲気の彼だったこともあり、クラスメイトの誰しもが彼の話に耳を傾けていました。
私は授業が終わった後に、Sくんにその話の感想を伝えました。
するとSくんはまた先程のような神妙な面持ちになって言いました。
『実はあのことで未だにわからないことがあってさ。
あの黒いオーラを見た時にその真っ暗な中にたくさんの人の手や顔のようなものが見えた気がしたんだ。
でもさっきも言ったけど黒いオーラを見たのは叔父さんの時が最初で最後だったから、俺の見間違いかも』
と、またいつもの明るい笑顔で笑ってみせました。
私は、Sくんの勘違いじゃなかったらと、ふとそんな想像をしてしまいます。
ですが、きっと無理に知ろうとする必要なんてないのでしょう。
私たちが深淵を見ようとするとき、また『彼ら』もこちらの深淵を覗こうとしているのでしょうから。

朗読: 小麦。の朗読ちゃんねる

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