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N駅の怪

これは地元のターミナル駅であるN駅にて起きていることです。  

一昨年の6月。暑い夏を目前に蒸した空気が、夜間の大学を後にして帰途に就く私にまとわりついてくる。そんな夜の出来事でした。  
大学の最寄駅からN駅に着き、そこで乗り換えるために9番線ホームへと向かいました。
時刻は9時を少し過ぎ、同じ乗り換えに乗る人はそこそこ多かった。  
そんな人々の中に、見覚えのある後ろ姿を見つけました。
私はその男がホームで立ち止まった際に、声をかけてみました。
「もしかして、コウキか?」
「おお!私くんじゃんか!」
私はその男を中学の同級生だと認識し、その男の名前を呼びました。
コウキというのは、仮に私が呼んでいた名前とします。  
しばらく、再会の喜びに浸っていると電車がやってきました。
それに乗り込むと二人並んで座って近況などについて話し始めました。  

近況のことをあらかた話し終えると、コウキは中学の頃の話を振ってきました。
そこでは私が怪談好きでみんなによく話していたことや、運動会で応援団をやっていたことなどを話題に話しました。
これらは仲の良かった中学の同級生であれば知っていることでした。
逆にそれ以外の人には知らない出来事のはずです。
反対に、コウキは自身の話題を自分から振るようなことはしませんでした。  

懐かしいやら楽しいやら、時間はあっという間に過ぎて私が降りる駅に着きました。
私が降りようとした時、コウキは一緒に立ち上がりました。
「俺もこの駅で降りるんだ」  
このとき、少し違和感を覚えました。
私は高校卒業と共に引っ越しをしていました。
そして、中学の学区内の駅はもう少し先の駅だったので、コウキが私と同じ駅で降りることが少し不思議でした。
しかし彼も、話していないだけで引っ越したのかと、私は自分を無理やり納得させました。  

一緒の駅で降りた私たちは、帰りに某ラーメンチェーンで夕食をとることにしました。  
そこから先はどこで別れ、どう帰ってきたのか。記憶がありません。
記憶は自宅に自転車を止めたところで再開しています。  
私は居間にいた親にただいまと声を掛けました。
すると、 「今日、誰と一緒にいたの?」  と聞かれました。
夕食をラーメン屋で同級生と食べることは伝えていましたが、名前を送っていなかったのです。  
ここで、私はあることに気づきました。  
名前が出てきません。これだとややこしいですが、「コウキ」という名前の部分が全く思い出せなくなりました。
名前を呼んでいた記憶はあるのに、読んでいた名前だけがすっぽりと。  
私は親にそれを誤魔化して自室に行って、自室の卒業アルバムを引っ張り出し、顔から名前を探そうとしました。  
ですが、そこに「コウキ」はいませんでした。
ついさきほどまで思い出を語り合っていた「コウキ」の面影すら、アルバムの中の同級生に見出すことができませんでした。  
私は自分の頭がおかしくなったことを疑いました。
すべては幻覚、白昼夢の類だったのではないかと。  
しかし、私は財布を開きます。
そこには、二人分のラーメンのレシート。  

それから、仲の良かった中学の同級生にこの話をしましたが、誰一人「コウキ」に行き当たる人物はいませんでした。  
これで終わりだったのなら、私の頭の病気あるいは先述した幻覚・白昼夢の類で済んだのかもしれません。  

それは、およそ一月経った頃。  
高校生の妹が夏休みに入り、N駅のある街に遊びに行きました。
私は家で積んでいた本を読んでいました。  
午後5時ごろ。妹が帰宅し、私の部屋の戸をノックしました。
いつも街で買ったものを見せに来たりするので、今日もそうだろうなと思っていると、 「お兄ちゃん、今日N駅に行った?」  
そう聞かれて、なぜかぞくっと背中に冷や水を浴びせられた気持ちになりました。
「行ってない」と答えると、「LINE入れたんだよ」という妹。
確認してみると、熟読しすぎて気づきませんでしたが4時ごろに『いまどこ?』という連絡が入っていました。  
妹が言うには、帰ろうと9番線ホームに向かう途中で、「私」の後姿を見つけたのだそうです。
そこで声を掛けようとしたが、「私」はすたすたと前に進んで人ごみの中に消えてしまったとのこと。
そこでどの電車に乗ったのか知りたくて、連絡したと。  

さらに、それから約一週間後。  
あの私の話を聞いてくれた中学の同級生の一人から連絡がありました。
「今日は楽しかったな!今度遊ぼう!」  
それを見た瞬間から嫌な予感がしつつも、連絡を取りました。  
「私」とその同級生は帰りの電車で会い、談笑したそうです。  
場所は、N駅で。  
もちろん、私はN駅には行っていません。    
あれは今も「私」の姿でいるのか。それとも……

朗読: 榊原夢の牢毒ちゃんねる

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