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烏と神社

私の住んでいる地域は、各町内に必ず一つ神社がある。
小さな祠の様なものから、大きくて立派な社殿のある神社、神楽用の舞台がある神社もある。
その中で、私は隣町の神社がとても気になってしかたなかった。

その神社は人家の少ない畑の中、道からの長い参道の奥まった所にあった。
道沿いに大きい鳥居が鎮座し、周囲を高い杉の林が取り囲んでいて、
日が遮られ正面から見ても中は暗く、社殿も見えなかった。
外観もその「鎮守の森」のせいで人を寄せ付けない感じがして気にはなっても、町外の人間が中を覗ける雰囲気ではなかった。
私が感じたその神社の印象は、「何か分らないが怖い所」だった。
その神社を通り過ぎ、暫く行くと国道に出る。
そこには大きいスーパーがあって、私は買い物の行き帰りに気になって、その黒々とした高い杉林をつい見てしまうのだった。

その日、私は自転車でそのスーパーに買い物に出かけたときの事だった。
冬の日は短く、そろそろ夕方になろうとしていた。
相変らず、遠くからでもその神社はすぐ目に入り、私は何とも言えない気持ちになっていた。
「あれ?」
日が傾きかけた青空に、黒い鳥があちこちから飛んできて、神社の高い杉の木の上でその鳥達が、ぐるぐると旋回し始めているのだ。
「カラス、かなぁ」
近づくにつれ、カラスらしき鳥は数を増しているように見えた。鳴き声も聞こえてくる。
黒い鳥たちは何か獲物でもいるのか、旋回し「カァカァ」としきりに鳴いている。
神社にカラスなんてどうなんだろうとか、何か動物の死骸でもあるのかなと、ちょっと不穏な事を考えてしまった。
カラス達は降りる様子も無く、ただ旋回している。
私はついに自転車を止め、その不思議な光景を眺めていると、前方から自転車に乗ってやってきた老人に、「おい、あんた」 と、いきなり声をかけられた。
「あんなもん、見るもんじゃねーぞ!」
その言葉にはなぜか怒気が感じられた。
「あ、は、はい」
私はその人の言葉に気圧され、あわてて自転車を漕ぎ出したが、見ていただけで怒られるなんて、不条理だと怒りがこみ上げてきた。
「あのー、なぜなんですか」
私は思いきってまた自転車を止め、後ろを振り返ったが、そこには誰も居なかった。
「えっ」
私は引きつったような声がかろうじて出ただけだった。
つい十数秒秒目を離しただけなのに、誰もいないのだ。
その道の両側は畑だし、曲がれる脇道もない。
くたびれたキャップ、泥だらけの長靴、しかめっ面の顔・・・。
確かに私は見たのに、幻のように消えてしまっていた。
あまりにもリアルな感覚に恐怖心もなく、ただ混乱していた。
「まさか・・・。あんなにはっきり見えるもんなの??」
ひとしきりパニクってオロオロしていたが、ふと、神社を見るといつの間にかカラスは一羽も飛んでいなかった。
その代わり、神社の杉の木々の間に白い服を着た人らしい数人がチラチラと見えた。
何か祭事でも、行なっていたのだろうか。
カラスが舞い狂う祭事、そして「見るな」と言ったあの老人。
(やっぱり・・・あの神社は何かおかしい・・・・)
私は漠然とした恐怖と不安感のせいか、急に寒さを感じて身震いした。
空を見ると太陽は役目を終え、山の稜線に沈もうとしていた。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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