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神隠し

これは2年ほど前に地元に帰省した時、友人のAから聞いた話。
怖くはないし長いけど良ければ読んでください。  

大学の夏季休暇中ですることもないからと帰省したけれど、家にいてもこれといってやることがないから毎日適当に歩き回っていた。  
そんなある日、一人で近所の本屋に行った帰り道に友人のAと会った。
Aとは中学からの付き合いで部活も一緒だったからかなり親しくしていた。
遠目に見たAはなんだか悲しそうな落ち込んだような顔をしていて、夏で蒸し暑いっていうのに黒いスーツを着ていた。
話しかけようか迷ったけど、一人だったし、その悲しそうな雰囲気がなんだか放っておけなくて結局声をかけた。

俺「A、久しぶり。どうしたのこんなところで」
A「ああ、俺か。久しぶり。ちょっと……、色々あってな」  

久々の再開だというのにAのテンションは相変わらずで、近づいてよく見てみると泣いたのか目が充血していた。

俺「なんかあったの?俺でよければ話聞くけど」
A「……ありがとう。お願いするわ」  

元気のないAを連れて近くのファミレスに入るとそれぞれ飲み物とフライドポテトみたいな軽くつまめるものをいくつか注文した。
その間もAは言葉少なでなんだか気まずかった。  
飲み物と料理がくるとAはぽつりぽつりと話し始めた。

A「今日で従妹のBが行方不明になって10年になるんだ」  

Bは10年前の夏、12歳の時に行方不明になったらしい。  
AとBは異性だったけれど、家が近いことと歳が近いこともあって本当の兄妹のように仲が良くて、
小さいころから互いの家を行き来してはよく一緒に遊んでいたそうだ。
Bは身内のひいき目なしにかなりかわいい子だそうで、
ここが田舎じゃなかったら今頃モデルにスカウトされていてもおかしくないほどだという。
俺も写真を見せてもらったが、確かにかわいかった。
10歳頃の写真だったが、隣に映っているAよりも背が高く
これは将来、スタイル抜群の美人になるだろうことが容易に想像できる感じだった。  
だからBが失踪した時、きっとBが可愛いから誘拐されたんだと噂されたらしい。
俺は中学の途中にこの地域に来たからその行方不明の話は知らなかったけど、
この辺に昔から住んでいる人はみんな知っている有名な事件だという。
近所の人なんかも巻き込んで大捜索したけれど結局見つからず、
10年たった今でも本人どころか彼女の当時の持ち物一つ見つかっていないらしい。

A「俺、もうBは戻ってこないって思ってるんだ」  

力なくそう言うAは見ていていたたまれなかった。
俺はなんて声をかければいいかわからなかったけど、取り合えず何か言わなきゃと思って
「そんな後ろ向きになるなよ!もしかしたら明日急に帰ってくるかもしれないし、
帰ってこなくても今もどこかで元気に生活してるかもしれないじゃん!」と気休め程度に励ました。
するとAは「違うんだ」と泣きそうな声でいう。

A「いい歳してこんなこと言っておかしいと思うかもしれないけどさ、Bは神隠しにあったんじゃないかって思ってるんだ。
それに……、もしそうだとしたら俺のせいかもしれないんだ」  

Aの声は泣きそうに震えていたが、どこか確信づいた雰囲気があった。  
それからAはゆっくりと話し出した。  

話は16年ほど前、Bが6歳の頃までさかのぼる。  
AはBより一歳年上で、当然だがAは一年早く小学生になった。
それまでは暇さえあれば一緒に遊んでいた二人だが、その時間はうんと短くなった。
Bは最初、自分も小学校に行くと言って泣きじゃくっていたらしいが、ある日を境にぴたりとそれがなくなった。  
当時のAは一人でいることに慣れたんだろうなと思ったらしいが、今思い返してみるとたぶん「あの人」に会うようになってからだと言う。

俺「『あの人』って誰?」  

俺が聞くとAは「よくはわかんない」という。  
一人の時間が増えたBはAがいないときは一人で近所にある神社で遊んでいたらしい。
神社の敷地は広くて、裏の方には山や小さな川なんかかもあって遊ぶにはいい場所だった。  
Bは幼稚園から帰ってくると毎日のようにその神社に行って一人で遊んでいた。
そんなある日、Aが小学校から帰ってくると、いつもなら「待ってました!」とばかりに飛びついてくるBがおとなしい。
具合でも悪いのかとBを見るとBは一人でニコニコしていた。  
「どうしたの?何かいいことあった?」とAが聞くと、
Bは嬉しそうに「今日ね!神社で真司みたいな人に会ったの!」という。
真司というのは当時やっていた仮面ライダーの主人公の名前で、Bは彼が大好きだった。
Bによると、その人は若い男で髪が長く、赤っぽい着物を着ていたとのこと。
このあたりじゃ見かけない上に、大好きな真司に似ていたから声をかけたそうだ。
しかし、男はBを見はするものの何も答えず立ち去ろうとする。
Bは聞こえなかったのかと思って「お兄さんは真司?」ともう一度聞いた。
男は足を止めると「私は真司ではない」という。
Bは「残念」と思ったが、その時には真司似のその男にすっかり興味津々で、男にくっついて歩き回った。
それからBが一方的に話しかけては男の後を追いかけて遊んでいたそうだ。
「また明日も真司に会えるかな?」とBはとても楽しそうにしていたらしい。  

次の日もAが学校から帰ってくるとBはニコニコしている。

B「今日もね、真司に会ったよ!今日は少しお話しできたんだ」  

男に名前を聞いても教えてもらえなかったらしく、
「じゃあ真司って呼んでいい?」と聞くと「好きにしろ」と言われたそうで、Bは男を「真司」と呼んだ。
BはAに「真司がね」、とその日にあったことを楽しそうに話した。  

それから1年ほど経って、Bも小学生になった。
Bは相変わらず真司に会いに行っているらしく、学校から帰ってきて荷物を置いたらすぐに神社に遊びに行っていた。  
この頃、Aは「結局『真司』ってどんな人なんだろう」と興味を持ち始めた。
Bに「俺も一緒に行っていい?」と聞くと、Bは「いいよ!きっと真司も喜ぶと思う!」と言った。  

次の日の放課後、AとBは一緒に神社に向かった。
神社は人が全くいなくて静かだったという。
Bはスタスタと裏山の方に向かい、Aはその後をついていった。
しばらく歩くと開けた場所に着いた。しかしそこには誰もいない。
Bも「あれ?いつもはここにいるんだけど」と不思議そうにしていた。
それからしばらくそこで待ったが、結局真司は現れなかった。  
その日は諦めて二人は神社で遊んだ後、それぞれの家に帰った。  

それから数日後、Bの家に遊びに行くとBの元気がない。
どうしたのかと聞くと「真司がね、Aを連れてきたことすごく怒ってたの」という。
話を聞くと、真司はあの日、二人をどこからか見ていたらしく「あの男は誰だ?」としつこく聞いてきたという。
従兄だと言えば「もうあいつを連れてくるな」と強めの口調で言われたらしい。

B「Aも真司に会いたいんだって言っても、私は会いたくないって、なんだかずっと不機嫌で……」  

Bはしゅんとしていたが、Aは何が何でも真司に会いたいというわけでもないので
「それならもう俺は行かないよ。そしたら真司も怒んないよ。元気出せって」と励ました。  

それから月日は流れ、Bが失踪する年の春。  
Aは中学生一年生、Bは小学6年生になった。  
Bは相変わらず、真司に会いに神社に通っていた。
たまにAが「最近真司とどんなかんじ?」と聞くとBは真司との話をしてくれた。
小さい時は一緒に神社の中を歩き回っておしゃべりしていたらしいが、最近は真司が用意してくれたお菓子なんかを食べてのんびりしているらしい。  
結局真司は誰なのかと聞くとBもよくわからないという。  
この頃くらいからAは真司に対して不信感を抱くようになっていた。  

当時、近くの町で若い男が親しくなった小学生を誘拐しようとした事件があった。
真司ももしかしたらBと親しくなって誘拐することが目的なのではないか、と懸念していたのだ。
Bは成長するごとに可愛くなっていたからそういう悪い大人に狙われることは十分に考えられた。
Aは少し強めの口調で言った。

A「なあ、もう真司と会わない方がいいんじゃないか」
B「え、どうして?」
A「なんか怪しいじゃん。不審者なのかも」
B「真司はいい人だよ」
A「わかんないじゃん。Bのことを誘拐しようと企んでるかもしれないだろ」
B「なんでそんなこというの!真司はそんなひどいことしないよ!」  

Bは今にも泣きそうな顔をすると自分の家に帰ってしまった。  
それからしばらくしたある日、Aが学校から帰ってくるとAの家の近くにBがいた。
Aは先日のことがあって気まずくて、気づかないふりをして素通りしようとした。
するとAに気が付いたBが駆け寄ってくる。
Bはもう怒ってはいないようで「A、一緒にAの家に行っていい?」と聞いてきた。その時のBはしきりに周りを気にしているような素振りで、どこかおびえているように見えたという。
不審に思ったAだが、Bをつれて一緒にAの家に向かった。  
家に着くとBはすぐに鍵を閉めてリビングの方へ走っていく。
Aも後を追ってリビングに行くとBがソファに体育座りをして縮こまっていた。 A「どうしたんだよ。何かあった?」  
Bは周りを警戒したような感じで、「Aの言ったとおりだったかもしれない」と言った。  
Aが「は?どういうこと?」と聞き返すと、Bはポツリポツリ話し始めた。

B「この間、Aに真司に会わない方がいいって言われたでしょ。そのことを真司に話したの。
『こんなこと言うなんでAひどいよね!』って。
そしたら真司が『そうだな、今はまだしない』って言ったの。
私、『え?今はって何?』って聞き返したの。
そしたら真司が急に手首を掴んできて……。
痛かったから振りほどこうとしたんだけど、力が強くてできなくて、顔もなんだか不気味なくらいの無表情で……。
『どうしたの?離してよ、痛いよ』って言っても反応がなくて、だんだん怖くなって、
泣き出したらやっと離してくれたんだけど、今度は今まで見たことないくらいの笑顔で『もうすぐだ』って言うの。それで怖くなって逃げてきたの」  

Bの左手首を見ると手形ではなく、変な模様のようなミミズばれができていた。

A「やっぱりやばいやつなんだよ。もう絶対に真司に会いに行くなよ」
B「うん……」  

その日は一緒にAの家でご飯を食べて、Bは帰っていった。

A「本当はこの時に親とかにちゃんと相談するべきだった……。今さら遅いけどさ……」  
Aは泣きそうな声でうつむきながら話をつづけた。  

それからというものBは神社に行かなくなった。手首のミミズばれもしばらくしたら消えて、
Bからは真司の話を聞かなくなったのでAはすっかり真司のことを忘れていた。
そして夏になった。
Aはその日、友達たちと朝早くから電車に乗って遠出して遊んでいて、家に帰ってきたのは20時前だった。

A「ただいまー」
A母「おかえり。ねえ、Bがまだ帰ってきてないみたいなんだけどあんた何かしらない?」
A「え?Bが?」  

Bの家は19時が門限で、Bは今までそれを破ったことはなかった。
Bはいつもちゃんと行き先を伝えて門限までには必ず帰ってくる子だったからBの親もAの親もそわそわしていた。
A一家とBの親父さんで近所を探し回ったけど見つからない。
その日、Bは友達と市民プールに行って駄菓子屋なんかを回って遊んでいたらしいが、その付近を探しても見つからない。
もちろんBの友達にも話を聞いたが、17時くらいには別れたという。  
さすがにまずいことになったってなって、20時半くらいにBの親が警察に連絡した。  
それから警察と近所の人たちであたりを捜索した。でも結局Bは見つからなかった。  
その時は突然のことだったからすっかり忘れていたが、しばらくして冷静になった時に、
もしかして真司が何か関係しているんじゃないかって思いついた。
Bの親にそのことを話して警察の人と一緒に神社に行ってあちこち捜索したが、結局見つからなかった。
神社の人に真司のことを聞いてもそんな男は知らないという。  
というかその時にAは初めて知ったらしいのだが、BはA以外に真司のことを話していなかったらしい。
大人たちに真司のことをしつこく聞かれたが、Aも実際に会ったことはないし、Bから聞いたことをそのまま話すしかできなかった。  
それから、Bは真司に誘拐された説が強くなって、その方向で警察は捜査していたが、結局今日に至るまでBは見つかっていない。  

ここまで話すとAは肩を震わせてひとしきり泣いていた。  
もし、本当にBの失踪に真司が関わっているとしたら、Aなら何かできたかもしれないと後悔する気持ちはよくわかる。
「でも真司が犯人だと決まったわけじゃないし、自分を責めるな」と俺はAを励ました。  
そこで俺はふと疑問に思った。

俺「でもなんで神隠しだなんて思ったんだ?」  

確かに真司は不思議な存在だが、神隠しというよりはただの誘拐と考える方が自然ではないか。  
するとAはスーツの上着ポケットから冊子を取り出した。
それは例の神社のパンフレットのようなものだった。

俺「……これがどうしたんだ?」
A「ここ、見てくれ」  

Aがパンフレットをめくるとそこには摂社の解説みたいなのが書いてあった。
摂社とはその神社の神様と縁故の深い神様を祀った敷地内にある小さな神社のことだそうだ。  
Aはそこに載っている写真の祠?みたいなのの柱に書かれた模様を指した。  
小さくて見づらいが、ラーメンのどんぶりの淵に書かれてるみたいな感じの模様が刻まれているのがわかった。

俺「これがどうしたんだ?」
A「……この模様、Bの手首に浮かんでた模様そっくりなんだよ。
もう10年前の記憶だからどんな模様だったのかなんてはっきりと覚えていなかったのに、これを見たときに『絶対にこれだ』って確信したんだ」  

Aの顔はいたって真面目で、俺はAの次の言葉を黙って待った。
A「それで今日、神主さんに話を聞いてきたんだ」  

神主によるとこの摂社に祭られているのは地主神で、昔からこの土地を守ってきた神様らしいのだが、非常に気難しい性格をしていて、
人間と触れ合うことを好まないらしい。
しかし、子どもは好きなようで時々気まぐれで子どもの前には姿を現すと言われている。

A「それで俺、もしかしてこの地主神がBを攫ったんじゃないかって思って、神主さんに聞いたんだ。
『この神様は人を攫ったりするのか』って。
そしたら、神主さん、色々話してくれたんだ」  
Aは落ち着くためか一度飲み物を口に含んでゆっくり飲み込むと、深呼吸をして話をつづけた。
A「この地主神らしい男を見たっていう子どもは昔からちょくちょくいたらしい。
赤い着物を着た若い男を神社で見たって。
けれど大体の子は一回見たくらいで何も危害はなかった。
でもBは一回だけじゃなくて何回も何年も会っていた。
だからきっと地主神に気に入られたんだと思うって。
神っていうのは気に入ったものを側に置きたがるから……」  

そこまで話すとAは黙り込んだ。  
俺も何ていえばいいのかわからなくてかなり長い間沈黙が続いた。
手持無沙汰になってしまったのですっかり冷めてしまったポテトをつまんだ。  
しばらくするとAは少しだけ笑って「ありがとう。聞いてもらえて少しすっきりした」といって帰っていった。  

Aから聞いたのはここまで。  
俺は幽霊とか神様とかはあんまり信じてないタイプなんだけど、この話に関しては神様が攫ったんだろうなって謎の確信みたいなものがある。
AやBのご両親のことを考えるとBちゃんには無事に帰ってきてほしいと思うけれど、
きっと彼女は今もあの神社のどこかで真司と他愛ない時間を過ごしているような気がしている。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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