公民館のエアコン

 これは、家電量販店の下請けの電気工事店で働くJさんが、エアコンの取付工事のため、ある公民館に行った際の不思議な体験談である。

 その公民館には、エアコンの専用回路が無かった為、容量変更などの電気工事から行う予定だった。
 夏場の猛暑の中での工事で、もちろん取付前だからエアコンは無い。
 Jさんは、天井裏に入り配線などを行ったが、暑さの為か具合が悪くなり、電気工事の作業のみ急いで終わらせた。
 念の為病院に行くと『熱中症』とのことで、数日間仕事を休み回復に努めた。

 Jさんは、体調を整えて仕事を再開し、溜まっていたいくつかの作業を片付けた。
 午後遅く、延期していた公民館のエアコンの取付工事に向かうと、車の出入りがせわしない。
 公民館の隣に警備員が立ち、交通整理をしていた。
 見るとそこはお寺の駐車場で、公民館の後ろが、塀で囲まれた寺の墓場だったという。
 そして、工事を延期した為、お盆に入ってしまい、墓参りの人々が沢山来ていた。
 立会い人の方は、お盆で忙しく、挨拶だけすると帰ってしまった為、Jさんは一人で作業を始めた。
 天井裏の作業はほぼ終わっていたので、あとはエアコン本体の取付となる。
 公民館の広い30畳ほどのホールと廊下の奥の8畳の和室の二か所に設置する。
 Jさんの仕事として夏場は、エアコンの取付工事が多くなり、一人でも慣れた作業であった。
 先に広いホールの方から取付して、電源を入れ、試し運転をした。
 ホールを冷やしながら、続けて廊下の突き当たりの和室の方の取付を始めた。
 ホールのエアコンは、大型の寒冷地仕様のもので、冬場の暖房にも使用可能。夏場は30畳の広いホールでも素早く冷やしてくれる。
 和室のエアコンの取付が完了した時には、薄暗い夕方になっていたとのこと。
 何となく、ホールの方から、沢山の人達のざわめき声が聞こえてきて、Jさんは「公民館を使用する人達が来たのかな。冷房が入っているから涼しくて良かった」と思ったそうだ。
 それでJさんは、挨拶をしようとホールに向かい、大変驚いたそうだ。

 なんとホールには、誰一人居なかった。
 そこには、試し運転中のエアコンの稼働音だけが、静かに響いていたそうだ。
 確かに人が沢山集まって、がやがやと話す声が聞こえていたのに、Jさんがホールに入った途端、静まり返ったとのこと。
 Jさんは、急に一人でいることが怖くなり、立会い人に連絡した。そして、急いで後片付けをして帰ったそうだ。

「お盆だから、みんな帰ってきたのかもな。それで新しいエアコンを見にきたんだと思う」 とJさんは話していた。

朗読: 小麦。の朗読ちゃんねる

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