人形

この話は私が得度して十年目の頃の体験談です
年明けから『家祓い』の依頼がやけに多かったのですが
そんな折知人から『和尚、同僚の相談にのって欲しいんやけど空いてる?』
との連絡があり『家祓い?』と尋ねると『それもあるけど他にもね・・・』と歯切れが悪い
『分かった。週末空いてるから行くよ』と答え行く事になり当日待ち合わせて相談者宅に
郊外の長閑な一軒家で門を入り玄関先に立った瞬間、異様なまでの殺気らしきもが・・・
気持ちを直ぐ臨戦態勢に切り替え中へと入り奥のリビングに通された

挨拶もそこそこに私の方から話を切り出した。『凄い邪悪な念を感じますが・・・』
すると相談者とその家族は青ざめた顔で押し黙ってしまった。
取敢えず部屋を見せてくださいと相談者に告げ案内をしてもらった
『ここです』と相談者の部屋の前に立つと先程感じた殺気がかった空気が
身体に纏わり着いてきた。扉を開けようとドアノブに手をやると『バチッ』っと
手を弾かれた。解り易く言うと静電気の強烈版のようなものです
此れが起きる時はかなりヤバい者が居る。それも強烈な念を持っている
すぐさま相談者に、変わって扉を開けて貰うよう促しました

中に入ると直ぐに元凶の場所は特定できました。押入れの前の空気が澱んでいたのです
扉は触れそうにないので更にお願いして開けて頂きました。何が出てくるのかと身構えていたのですが
開けた途端に澱みは消えたのですが可笑しい。澱みは消えたが殺気は確実に残っていると感じたので
押入れを覗くも特段何も怪しきものが無い。念のためお仕入れの物を一旦すべて出して頂き確認しても
殺気を出している物は見当たらない。空になった押入れを今一度覗いてみると頭上から気配を感じた

懐中電灯を借りて見渡していると奥の端の天井部分が外れるようになっているのに気付いた
『ここは外れますか?それと何かの物入れ的な部分ですか?』と問うと『いえ、天井裏です』との答え
『外して確認してもよろしいですか?』と問うと『あ、はいどうぞ』と少々困惑気味の返答が戻ってきた

外して中を見渡すとそこに元凶があった。屋根の柱に五寸釘で打ち抜かれた『藁人形』の姿が・・・
これだ。これが感じた殺気の元凶だと確信したのでした。ただ抜くにも道具がないので相談者に
『ホームセンターでバールを買ってきて下さい』とお願いしご両親に走ってもらい、その間相談者に
身に覚えがないかを聞いてみたところ『まさかとは思いますが・・・いやありえない』と口ごもるので
私から女性関係に問題ありませんでしたか?と問うと『最近別れた彼女がいますが・・・だとしてもどぅやって家に・・・』
あの藁人形を見つけた時、後で外せばわかると思いますが髪の毛がはみ出していたんです。間違いなく女性の髪です
そうこうしてると御両親が帰宅され部屋にバールを持って上がって来られたので早速取り外しに掛りました
苦戦する事10数分。ようやく外れ持っていた半紙に包み出しました。皆は顔面蒼白で『誰がいつどぅやって・・・』声にならに
呟きを繰り返していました。

取敢えず持ってきた塩で封印し仮清めをして藁人形の中身を確かめました

予想通り中からは髪の毛の束と爪、相手を決定付ける品物が出てきました。それは片方のピアスでした

その場で相談者に元カノさんに連絡取れますか?と問うと直ぐに連絡を取り相手が出るなり
『お前何してくれたんや!どぅいう事か説明しろ!』と声を荒げていたので相談者に私に電話を変わるよう促し
私が元カノと話をしました。いまから此方に来ることは可能ですか?と問うと『はい』と小さな声で返事をしたので
では直ぐに来てください。と話し待つことに。その間家族と相談者には落ち着いて対応していただくようお願いをし
警察沙汰にはしないであげてくださいと。納得をしていただき元カノがきたので話を聞く事に。

何故このような行動に出たのか?元カノは別れが近いと感じたころ相談者が家に泊まりに来た。
翌日彼が自宅の鍵を忘れていった。元カノは自分でも何故合鍵を作りに行ったのかはよく覚えていないとi言う
相談者は新しい彼女が出来つつあったのを元カノは周りの情報として耳にした。結果相談者は元カノと別れ
新しい彼女と付き合う事となる。合点がいかなかった元カノは相談者に対しての憎悪が日を追うごとに増していったが
反面では相談者の事を忘れられない。そこで『藁人形』で相談者を呪い、呪った自分も報いを受け死ぬことになれば
死後の世界で相談者とまた一緒になれると云う歪んだ想いでこの行動に至った。でもどぅせやるなら彼の家の
彼の部屋で呪いをかければもっと効果がでるだろうと思い込んだ。これが事の顛末であったのです。

藁人形にピアスを入れたのは『見つけて欲しい』願望と自身がやったのだと云う証を残すことで
相談者への想いの強さを表したかったのだと元カノは話してくれました。余りの衝撃的な告白に
相談者も親御さんも茫然自失で言葉も出てきませんでした。

歪んでしまった元カノの愛情が藁人形を使っての『呪い』と云う形になってしまった恐ろしくも悲しい体験でした

その藁人形と髪の毛とピアスは私が持ち帰り丁重に供養しお炊き上げさせていただきました。
長文になりました事ご容赦願います

霊よりも人が一番恐ろしや。  合掌

 

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