足音

私がまだ小学校低学年の頃の夏休みの夜、看護師をしている母は夜勤でいない日。 父と二人の夜でした。

父も夜は地区の寄り合いがあり徒歩10分程の所にある公民館に行く事になっていました。
姉は友達の所に泊まりに行っていたので独りで留守番する事になっていました。
しかし、怖がりの僕が留守番する訳はなく、無理矢理父にお願いして公民館について行くことになりました。
公民館まで徒歩10分と言えど田舎道で田んぼや畑の道を歩いて行くのはちょっと怖かったけど、父も一緒だったのもあり平気でした。

約1時間の会が終わり、帰り道。
父が「近道して帰ろうか!」と言い出し、僕はワクワクしながら父の後をついていきました。
小高い轍を通ったり、知らない田んぼのあぜを通ったり、とても楽しかっだのです。
しかし、暫くして父が首を傾げて「おかしいなぁ、おかしいなぁ」と言い出しました。
「どうしたと?」と父に聞くも父は「おかしいなぁ」を繰り返すだけ。
どうも、田んぼ道が終わらないようで、歩いても歩いても私道に出られないと。

その時です。
田んぼの中あたりから ザッザッザッザッ と植わっている稲をかき分けながらこちらに向かってくる足跡が聞こえてきます。
「えっ⁈」と田んぼを見渡すけど真っ暗でよくわかりません。
父も顔色を変え、「しまった‼︎」と言い、僕の手を強く引き慌てて水路にあるポンプ室の小さな建物まで走って、
「目を閉じてじっとしているんだ。喋るなよ!目を開けるなよ!」 と怒鳴るように僕に言うと、水路のポンプ小屋の壁に張り付くようにしました。
僕も同じようにして目をギュッと閉じました。
そうしている間にも「ザッザッザ、ザザザー」と稲をかき分けながら走り回る足音が辺りから聞こえてきます。
僕は恐怖で耳も塞いでいましたが、その足音は頭の中にまでひびくようでした。

暫くして辺りが静かになり、再びカエルの鳴き声が戻ってきて、父が「もう大丈夫だ」と。
僕はまだ目を開けたくなかったが、父に手を強く引っ張られ、家まで帰りつきました。
家までどう帰ってきたかはあまり覚えてません。
父に「さっきのは何だったと?」と怖がりながら聴くと、
「あれは兵隊さんだ。戦争中、両足を亡くした兵隊さんが帰還してからも苦しみ、あの辺りで自殺されたんだよ。
無くした足だけがいつまでも身体を探して彷徨っていると言う話だ。
じいちゃんから話は聞かされていたが、父さんも初めて経験した。
あの場所を通って、しまった!と思ったよ。
目を開けてしまったり話し声を上げると兵隊さんの足がその人の体を奪って行くそうだ」と。

それ以降、公民館への近道は二度と通らないと思いました。
夏の暑い夜の出来事でした。

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