これは男子高校生の吉田君、高橋君、伊藤君が体験した話。
3人は夏休みも半分が過ぎた8月の初旬、肝試しに行こうという話になり、電車で一時間ほどのところにある山の廃墟に行くことにした。
実際に行ったことはないが、一年上の先輩がここに来たことがあるらしく、高橋君がその時の話を聞いていたから廃墟があることは知っていたそうだ。
3人が山の登山道口に着いたのは午後4時を過ぎたあたりだった。
登山道を歩き、途中から脇道に逸れて廃墟を目指す3人。
「ここって石川先輩が来た事あるみたいで話聞いたけど、脇道に入ってから20分くらいのとこに廃墟があるらしいよ」と高橋君が話していた。
そんなこんなでワイワイと話ながら山道を歩き始めた3人の耳に何かの音が聞こえてきた。
ニャーオ…ニャーオ… どうやら猫の鳴き声のようだ。
「お?猫の鳴き声だ!近くにいるのかな?」と吉田君が周りを見渡すが猫の姿は見えなかった。
「野良猫が住み着いてんだろ?早く行こうぜ」と伊藤君が吉田君を急かす。
山道を10分ほど歩くと廃墟は姿を現した。
ただ、正面は川が流れているため迂回しなければ廃墟にはたどり着けないようだったので、3人は200mほどのところにある古びた小さな橋を渡った。
橋を渡った後くらいからまた ニャーオ…ニャーオ…ナーオ…ナーオ… 猫の鳴き声が聞こえてきた。
さっきよりも鳴き声は大きく聞こえるので近くにいるようだ。
ザッ…ザッ…
枝や木の葉を踏みつけて山道を歩いていたのだが、吉田君が高橋君の様子がおかしいことに気付いた。
橋を渡ったあたりから、ほとんど喋らなくなっていたのだ。
高橋君は陽気な性格でいつでもケラケラ笑っているようの子なのだ。
それが、今は暗い顔して俯き震えている…
「高橋?どうした?気分悪いのか?」と吉田君が声をかける。
「なんだよお前ビビってんの?」と伊藤君も声をかける。
「なぁ…さっきから聞こえる鳴き声…あれ…猫…だよな?」と高橋君が2人に問いかけた。
「え?ああ、そういやさっきからしてるな」と吉田君が言うと伊藤君もウンウンと頷いた。
だが次の瞬間、吉田君が何か違和感に気が付いたようで 「あれ?え?これ…猫か?」と言った。
鳴き声に耳を傾けると…高橋君が震えている理由がわかってしまった。
ニャーオ…ニャーオ…ニャーオ…オニャア…オギャア…オンギャア!オンギャア!オンギャア!オンギャア!
それ、猫の鳴き声ではなく…人間の赤ちゃんの鳴き声なんです。
もう日も落ちかけている時間に誰も来るはずのない山道で赤ん坊の鳴き声がする…。
みるみるうちに3人から血の気が失せていった…。
しかも、その鳴き声は廃墟の方向から聞こえていて、こちらに近づいていた。
「ヤバイよ!もう帰ろう!」
伊藤君がそういうと吉田君と高橋君も同じ考えだったようで、すぐに来た道を転ばないよう注意しながら走って戻った。
赤ん坊の鳴き声はずっと同じ距離感を保ちながら聞こえていて、登山道に戻るまで聞こえていたそうだ。
もしあの時、猫の鳴き声だと気にもとめずに廃墟に行ってたらどうなっていたか 3人は今でも時々思い出すそうです…。