この話は、本当は誰にも言っちゃいけないのかもしれない。真実も分かっていない。かなり長くなる。
私は、O県のある島で生まれ育ちました。
観光地としても心霊スポットとしても、とても有名になってしまった島です。
私には姉がいる。
私たちは、霊感ゼロなくせに、よく怖い体験をした。
夜更かしをしていると、「ダダダダダ」「ドン」と、走っては何かにぶつかっている音を何度も聞いたり、
「この間、〇〇のとこで、首グラグラ揺らしながら立ってたよね」などのドッペルゲンガーもどきな情報が月1回寄せられたり、
ラップ音は「これが当たり前じゃないの!?」と思うくらい日常茶飯だった。
だけど、霊感ゼロ&怪談の多い島だから、騒ぎ立てる方が逆に恥ずかしい、と子供ながらに思っていたし、ホラー映画や怖い話も普通に好きだった。
ところで、私と姉は歳が結構離れていた。
私が小学生の頃、姉は高校生。
部活やら塾やらで、同じ家に住んでいても会うことが少なかった。
だから、テスト期間中の姉が早く帰って来る日は、私にとって楽しみな日だった。
だけど、あの日、姉は真っ青な顔で、玄関にうずくまっていた。
「何してんの」と聞くと、大体こんなことを言っていた。
「今日はとにかくテンションが上がってて、家に着いて、誰も居ないことは分かってたけど、『ただいま〜!』って言ったの。
そしたら、家の奥から男の声で『おーい』って聞こえたの。弟か父さんだと思って『ただいま〜疲れた〜』って靴脱いでたら、また『おーい』って…
呼ばれてんのかな?って思って急いでリビングに行こうとしたんだけど、また『おーい』って声がして気づいたの…この時間に誰か居るのおかしいって… 不審者かもしれないって思って、ゆっくりゆっくり家の中に入ったの…そしたら…」
「そしたら?」
「…」
「何があったの?」
「誰も居なかったの」
え、それだけ?って思った。だって、あまりにも怯えてたから。
変に怪談慣れしてたせいで、正直がっかりした。 けど、今は分かる。
姉はたぶん、私を守ってくれた。
これ以上は話しちゃダメだって、直感的に思ったんだと思う。
もう真実を確かめる術はないけど。
それから、姉はおかしくなった。
まず、皮膚病にかかった。
両親は本州の病院まで連れていったけど、原因は不明。
モデル並みの体型だったのに、どんどん太っていった。性格もキツくなった。
なぜだか分からないけど、猫と肌の黒い人を好むようになった。不気味だった。
皮膚病のせいか、姉からは常に鉄の匂いがするようになった。
ある夜、寝ていると姉の悲鳴で目が覚めた。すぐ病院にいった。
夜の病院に姉の悲鳴が響き渡る、あの気持ち悪さは、表現できない。
両親は情緒障害を疑って受診させたが、結果は原因不明。
カウンセリングを受けたり、漢方とか色んな薬に頼ったりもした。
それから、これは関係ないのかもしれないが、私も大きな手術を2回受けた。
病気とうまく付き合っていかなきゃならない体になってしまった。
私が中学生になった頃、比較的落ち着いていた姉がポツリと言った。
「あの人みたいになるのが怖い…」
姉の包帯を替えるのが、私の仕事になっていた。
毎週日曜日、祖母と朝の漁港で魚を買うのが習慣だった。
あの生臭い、磯臭い匂いが、私に「美味しい刺身が食べれるかも」と期待を持たせてた。
皆さんは、ユタという名前を聞いたことがあるかと思います。
私は、漁港で初めてユタと名乗る女性に会った。
「え、こんな所にユタって来るんだ…」と思った。
祖母と何か話をし始めたので、私はオヤツに貰ったかまぼこをモシャモシャ食べながら待っていた。
「交通事故みたいなもんだからねぇ」
ユタはこんなことを言っていた。
高校生になって、ほとんど歩けなくなった祖母に「あの時ユタと何を話してたの?」と聞いたことがある。
祖母は話すのを渋っていた。それなのに、私はしつこく食い下がってしまった。
姉の事だと確信していたから。
結論から話すと、姉は女の人に取り憑かれている、という事だった。ありがちな話だ。
その話をした数日後、祖母は喋れなくなった。頭をぶつけて、脳に障害が残ったらしい。
お喋り大好きな祖母が、言葉を無くしてしまった。本当にごめん。
私は本州の大学へ進学。大好きな祖母の最期を看取ることも出来た。
今は教育に関わる仕事をしている。
よく「遊び半分でやっちゃいけない」なんて言われるけど、姉の何がダメだったのか分からない。
そもそも霊的なことなのかさえ、はっきりしない。
女の人が取り憑いているとユタは言ったが、姉が聞いたのは男の人の声だったはずだ。
猫や色黒の人を好むのはなぜ?皮膚病は? あの時、姉は何を見たんだ?
今でも磯臭い匂いがすると、ユタの言葉を思い出す。
姉がどうなったのかは、皆さんの想像にお任せします。