遊歩道のランナー

都内某所での出来事です。

私が中学2年のいつだったかは忘れましたが土曜日だったことだけは確かです。
塾に通っていた私は土曜日にある授業に参加したあと迎えに来てくれた母と共に外でご飯を食べ、帰路についていました。
帰路といっても、時間は21時30分を回っていたので周りは閑散としていました。
幹線道路を渡り、住宅街の方を抜けていくと見慣れた遊歩道が出てきました。
それはいつものことですが、変なのはそこからでした。

いつもは明かりがともっているはずの街灯に一切として光がついていなかったんです。
その道は住宅が並んでいるわけではないので街灯がなかったらまさに闇と言えるような状況になります。
ましてや遊歩道は両脇に草木が生い茂っており、ただでさえ月明かりがないのにその明かりがさらに絞られてしまっていました。
でも、私も母も携帯を持っていたし、今はどうかわかんないけどその当時私はスマホの中に入っていたワンセグという初期アプリでテレビを見ながら歩いていたので不審には思いましたが、そのままその道に進んでいきました。
その遊歩道は川沿いの道で途中に公園があるためその周りを囲むように道がある感じでした。
進んでいってみると公園の電灯すらも消えておりさすがに不気味だなぁと思っていました。
その公園の前に差し掛かった場所でいきなり母が止まりました。
メールを打つために母が止まることが度々あったので、母が止まっていることに気づいた私は母から数メートル離れたところで止まってスマホを見ていました。

当時、私はイヤホンを着けていたのですが遠くから何かがこっちのほうに近づいてくる音がしました。
私は”あぁ、ランナーか”とスマホを見ながら思いました。
実際、この遊歩道は夜遅くになってもランナーが走っていることがあったので特に何も思いませんでした。
しかし、母が止まっている時間が長かったため私は顔を上げて母の方を見ました。
その時に、丁度母親のわきから足音の主であるランナーが姿を現しました。
まだ時間がかかりそうだなと思った私はまたスマホに目を落としました。
そうすると私の後ろ側をそのランナーが走っていく音が聞こえました。
その足音を追うように私も目をそっちの方に向けました。 誰もいませんでした。
確かにその先には緩やかなカーブがありましたが、距離的にはそのカーブまで数十メートル、足音を追ったにしてはそのランナーが消えるには早すぎるものでした。
私は自分で言うことでもないですが視力がよく、夜目も利くので見失ったとは考えにくいし何より自分が右手に持っていたスマホは暗闇のなかだと相当明るく光っていました。
その状況で見失ったとしても速さ的に足ぐらいは見えていないとおかしい気がしました。
母親が後ろからきて一言目に 「今の人、何?」 と言われました。
母は自分のわきから誰かが来るのもその足音が道に沿って行ったのも全てわかっていましたが、なぜかその人がどんな感じだったかすら思い出せないと言っていました。
私は、はっきりとその人が男の人であったことだけを覚えています。
しかし、私はずっと違和感があり”なんだかなぁ”と思い続けていました。

その後、家に普段より早くついて風呂に入っていたときにずっと思っていた違和感がわかりました。
その暗い道の真ん中あたりに公園があるわけで、道がずっと明かりがない状態なのでなぜ母親のわきから出てきたその人が男の人であるとはっきりわかったのか自分でも不思議です。
当時の感覚としては、若めの男の人で、半そでにインナーを着ているというところまでわかっていました。
本当に細かい場所までそんな一瞬で分かるものなのかは微妙です。

3年たった今でも、あれが何だったのか自分にはわからないし、その道の街灯がその日だけ全てついていなかったのかもわからないままです。

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