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渇望

※実話を基にしたフィクションです。

皆さんにはお盆の時期にどんな思い出があるでしょうか。

多くの人は都会から田舎の実家に帰省して、

のんびりとした夏の一時を過ごす……そんな感じではないでしょうか。

僕もご多分に漏れず、子供の頃は田舎への帰省を楽しんだ思い出ばかりです。

ただ、ある年の夏を除いて。

その年も、田舎の実家へ帰省するために長野の山中に向かいました。

従兄弟たちとも合流し、昼間は山で虫取り、川で魚釣り。

夜は地元のお祭で騒いだあと、買っておいた手持ち花火を持って庭で遊んだりしました。

普段一人っ子の僕は、従兄弟達と遊ぶことが凄く楽しかったのです。

たくさん集まる従兄弟のうちでも特に僕が仲が良かった三兄弟の、仮にT兄ちゃんとします。

T兄ちゃんは5つ年上で、頭が良くて運動もでき、憧れの兄ちゃんでした。

T兄ちゃんのお母さん、つまり僕から見た叔母さん(Mさん)は、本家の伯父さんの妹で、

とても優しく人当たりがいい人で、僕も良くしてもらっていました。

ですが、T兄ちゃんはいつ頃からか、お盆の時期に何故か体調を崩してしまうのです。

M叔母さんに聞いても、帰省する前はとても元気で、

そんな兆候はないのにも関わらず、毎回謎の高熱が発生するのです。

奇妙なことに、お盆が過ぎてしまうと何事もなかったかのように元気になるそうです。

その時もT兄ちゃんは夕方辺りから体調を崩し、夜はずっとM叔母さんが療養をしていました。

次の日、別の従兄弟たちと山へ駆り出そうとすると、M叔母さんに制されました。

M叔母さんはヒステリックにも近い状態で、今にも死んでしまいそうなT兄ちゃんを背負い、

他の兄妹も強引に連れ、そのままどこかへ行ってしまいました。

その日は僕を含め他の従兄弟もM叔母さんたちのことが気にかかりなんだか遊ぶ気になれず、

家の中でテレビを見たりして過ごしました。

夜、もう既に子供は寝る時間でしたが、僕はトイレに行きたくて起きました。

眠い目を擦りながら廊下を歩いていると、居間で大人たちが話し合っているのを偶然耳にしました。

内容は、どうやらT兄ちゃんの事でした。

扉越しに聞き耳を立てていると、ふいに扉を開けられてしまいました。

そこに居たのは僕らと同じ分家の叔父さん(Aさん)でした。

このAさん、心が子供のまま大人になったような人で、子供の行動に理解があり、よく一緒に遊んでもらっていました。

聞き耳を立てていた事は気に留めず、そのまま一緒にトイレに行きました。

「M叔母さんの事は心配しなくても大丈夫、

 T兄ちゃんを病院に連れて行ったんだ。明日には帰ってくるよ」

と教えられました。

次の日。

M叔母さんが、お寺の和尚さんを連れて帰ってきました。

子どもたちは外で遊ぶように強制され、その日何があったのかは分かりません。

夕方に帰ってくると、T兄ちゃんはすっかり熱も引き、元気そうにしていました。

M叔母さんがずっと喜びの涙を流していたのを覚えています。

その夜、残っていた花火を楽しもうとみんなで庭に出ました。

僕はAさんにも声をかけようと思って、父にAさんの所在を聞きました。

すると父は「Aさんは帰った、もうここには来れないんだ」とだけ言いました。

その後、大人になるまで、帰省時にT兄ちゃんに謎の高熱が起こることはなくなりました。

先日、その事を父に聞いてみました。

「一種の生霊って奴らしい。Tくんがあんなに苦しめられたのは、Aさんが送っていた生霊のせいだった。

 俺も深くは知らないんだけど、Aさんの家は子供に恵まれなかった。

 M義姉さんの本家には、お前も知っての通り子供がたくさんいる。

 それが引き金になって、無意識のうちにAさんは本家を恨むようになった。

 そして長男のTくんが標的にされていたんだとさ」

きっとAさんは子供が好きだったのでしょう。
僕らが遊んでいたAさんは、とても人を恨むような人柄じゃありませんでした。

けど、だからこそ裏では渇望していたのでしょう。

そしていつしかその渇望は、無意識のうちに怨念になってしまった。

今でもAさんは本家から絶縁されたまま。

噂では行方不明になっているとかいないとか……。

T兄ちゃんとは帰省のたびに遊ぶようになり、大人になった今でも仲良くしています。

生霊は、ほんの些細なことでも無意識に飛ばしてしまっているそうです。

みなさんも、人を無意識のうちに恨んだりしていませんか?

朗読: りっきぃの夜話
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