夕張のホテル

あれは今から約18年位前の夏の事です。
主人とまだ付き合い始めのお盆休みで、北海道の道東方面から夕張市へと旅行に行ってみようと計画しました。
車で 2、3時間位で夕張には着くので行き当たりばったりで、泊まる所などの確保はしませんでした。
日中は、天気もよく有名な夕張炭鉱を見たりと観光を楽しみ、あちこち施設を見て歩くと、時間はあっという間に18時位になり、
夕食をと辺りを詮索しましたが、自分たちが思っていた以上に夕張市は過疎化が進み、
施設等の閉鎖時間も早く、慣れない町で迷い始めてしまったのです。
気付くと、昔は人が住んでいただろう住宅街や、潰れてしまった店やホテルばかりで、
町がヒッソリとして人の気配がないのです。
もちろん人がいないので明かりも乏しく、主人と途方にくれ、気付けば時間は22時を過ぎ、 2人は疲れてしまい、無人駅に停車して携帯で泊まれる場所を検索しました。
2人の口数も 疲れて少なくなり、外は霧と暗さで不安になっていると、
1台のタクシーが停車してる事に気付き、主人は「ここの人なら、ホテル知ってるかも 」と話を聞きに行ったのです。
5分位で戻ってきて 「ここの坂道を道沿いに行けば、ホテルがあるって!!」 と、私たちはやっと休める嬉しさから、言われた道を車で走って行きました。

距離的には、結構走ってカーブがとても多く街灯もほとんどない山道を登って行きました。
ある程度走ると、右側に薄い青い看板でホテル、と書いてある場所を見つけ、
下は車庫で2階が泊まれるような、ラブホテルみたいな場所でした。
もう、汚いとか古いとか今の2人にはどうでもよくて、早くお風呂に入って寝たい! 休みたい!それしかなかったのです。
部屋は6畳間が2つ繋がっているような作りで、テレビも小さいしほこりがすごかった記憶があります。
途中のコンビニで買ってきたご飯をささっと食べてお風呂に入ろうとしましたが、部屋の電気も暗かったのですが、
お風呂場も暗く茶電位にしかつかないので少し怖かった私は主人に一緒に入ってもらい、シャワーを浴びるだけにしました。
2人とも こんなに素早くシャワーに入る事あるのかって位にそこから早く出たくて、急いで洗いました。
それでも、入浴できて落ち着いた私達は荷物の整理をしようと部屋に戻ると、部屋がタバコくさいのです。
入室してからタバコは吸っておらず、灰皿を見ると2本の吸い殻がありました。
「えっ? これ誰の?」
私は、嫌な予感がして「財布確認!!」と叫び、主人も、慌てて各自の財布を確認しましたが盗まれてもおらず、
もしかしたら、清掃の時忘れたのかもね………と2人は思うしかなかったのです。
もう寝て早く帰ろうと、しかし部屋の電気はつけておいても、苦痛に感じない位に暗いので 2つ繋がっている部屋の電気はつけたまま就寝したのです。

しかし、5分後「ん?お風呂場って電気消したよね?」と私が主人に聞くと 「消したよね」……お風呂場から灯りがみえたのです。
「2人で消しに行こう」と様子を見ながらお風呂場に行きました。
やはり 電気はついていましたが何も変化はなく、ただ疑問だけがモヤモヤと増えていきました。
疲れているはずなのに2人とも中々寝付けず、静かに時が過ぎるのを待つ感じでいると、
私は テレビがある部屋の右側 主人は窓側の左側の1つのベッドに寝ていたのですが、
右足の爪先が ちょん。ちょん。とされる感じがあって
「あぁ、たくさん歩いたから疲れてるんだぁ」と 心の中で思ってると、
ちょん。ちょん。が、次第に ぐい!ぐい!と引っ張られる感じになったのです。
手で引っ張られるのではなく 分からない何かが、足を引っ張り出したので
「あ、足が引っ張られる!!」と叫び 、
主人と場所を交換してもらい 「えっ?」「あっ!」と主人も感じたのか当時はガラケー時代でしたが御守りを検索して待ち受けにして2人は固まってました。
不思議な事に ホテルは物音ひとつせずシーンと静まり返っており、それが逆に怖く感じてしまい、ところが やはり疲れには逆らえず、いつの間にか寝てしまったようで私は夢を見たのです。

でも、果たしてそれが、夢なのか現実なのかは今でも謎なのですがスーツを着た中年男性が、女性を待っているのか1人で泊まりにきたのか分かりませんが、ソファーに座ってじっとこちらを見ているのです。
真顔で、視線はこちらを見てただ座っていました。
不思議と怖い人とか 気持ち悪いといった感情がなく 私も眠りの中でフワフワしていたのだと思います。
しかし… 急に目が覚めたのです。ビックリして一瞬で目が開きました。
誰かが私の足を撫でたのです。乱暴にではなく、子供を撫でるように。
隣りの主人を見るとぐっすり眠っており、主人ではないとベッドで上半身を起こし周りを確認するように見回すと、
私は足を引っ張られるので、右側から左側に場所を主人と交換してもらったはずです。
なのに、私は右側にいたのです。
しかも足を撫でられ目を開けた瞬間、 おじさんがよく使うような甘い頭髪料の匂いが部屋に漂っていたのです。
まるで今 ここに自分の目の前におじさんがいるような。
姿は見えませんが、雰囲気としている感じなのです。
時間は朝の5時位だったと思いますが、いよいよ限界を迎え、主人を起こし 「帰ろう!!」と
宿泊代6千円を払う場所が、お風呂場の扉の左側に小さい扉があるのですが、
そこに手が入るような穴があって、そこに帰るときお金を置くと玄関が開くと書いてました。

思えば、ここにくる前も今も電話もなく誰が管理しているのかという疑問がわきましたが、
もう帰れる嬉しさに6千円を置いて、私は一瞬 、一瞬だけ置いたお金から目を離したのです。
でも何かが小さな穴から出てきて、
それが真っ青過ぎる白い手なのか、 白い手袋なのかが分からないくらい 異様な物でした。
だって どちらにしてもおかしいですよね?
私達は電話もないから帰りますも言えないし、フロントもないので連絡手段がないのに自分たちの都合で帰るのに、お金置いたら即持っていけるなんて。
車は無事に車庫にあり、車庫から出て朝の明るい時間にそのホテルを見て私達は愕然としました。
部屋数は 5つか4つあるようですが、他の部屋の窓には全て木が打ち付けられており、自分たちの泊まった部屋だけカーテンがついていました。
周りは 雑草が茂って、絶対に管理されてないこと、下から見上げた時に、泊まった部屋のカーテンが揺れていたこと。

帰りは、着た山道を下って行くと道路沿いに小さな お仏像があちこちにありました。
私達はタクシーのおじさんの時から化かされたのか、ただ単に人気のないホテルに来てしまったのか、
謎だらけですが、皆様も田舎や知らない土地に行く時はしっかり計画をたてる事をおすすめします。
ちなみにですが そのホテルですが ◯ワン、という名前だったような気がしてGoogleで調べると有名な心霊スポットになってました。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ


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