未明の侵入者

去年の7月の終わり、私は何度も捻挫をしたり、ひどい頭痛に悩まされていた。
捻挫については一番ひどいものは、病院に通ったが完治せず、後少しで1年が経とうとしている。
頭痛は特殊で、午前3時~4時の間に頭が熱くなり、まるで上から強い力で押さえ込まれているような感覚になる。
だいたい2時間くらいガンガンと痛みが続く。

その後、仕事へ行くため這いつくばって支度していた。
あまりにも毎日続くため、私は職場の上司に、自分が何かの病気かもしれないと告げた。
突然続いた体の不調に不安な日々を送っていた。

8月に入ってすぐ事件が起こった。  
私はアパートで、育ち盛りでヤンチャな猫と暮らしている。
防犯的に不用心だとは思いつつ、1階なのに夏は窓を開けながら寝ることもある。  
猫はいつも早朝になると起きて走り回ってしまうので、捕まえて抱っこして寝かしつけていた。それが日課だった。
その時もちょうど寝かしつけようと猫を捕まえてベットに入って横になったところ、突然隣のリビングの大きな窓が、ガラガラガラガラ、と大きな音をたてて開いたのだ。
私は寝室のドアを背にする形で横になり、なおかつ猫を押さえていたため振りかえることができず、そのまま硬直してしまった。  
となりのリビングで、人の気配がする。
ゆっくり、しかし一歩一歩近づいて来る音がする。
私はふいに、隣町で殺された一人暮らしの女性のことを思い出した。  

あぁ、なんで施錠の確認をしなっかったんだろう…誰がなんの目的で侵入してきたのか。
私は殺されるのか。ごめんなさいお父さんお母さん……

いま急に起き上がれば侵入者が逆上するかもしれない。
寝ているフリをしながら110番の準備をしよう。
そう思った瞬間、今まで押さえていた猫が、急に怯え始め、耳を下に倒し、低い姿勢のまま私の布団の中にズルズルとお尻から潜っていった。  
同時に、侵入者が寝室のドアに足を踏み入れる気配がした。
怖い!!!殺される!!!!もうだめだ…  
心臓は大きく早く鼓動をならし、今にも侵入者に聞こえてしまうのではないか、と思った。
呼吸は乱れてうまく息も吸えない。大きく乱れる呼吸音で、寝たフリがバレてしまうのではないか……  
自分の意思とは関係なく、今にも叫びだしそうだった。
そこで、顔を見られないように寝返りをうつフリをして横向きになり、布団の中に潜った。 
猫は大きく目を開けて私を見ていた。

そのまま体感的に30分ほど経ったと思う。
気配が薄くなったため、スマートフォンを手に取った。
だがもし110番して、侵入者が逃げていて、寝ぼけていたのではと言われても嫌だなと思い、110番を表示しつつ、後は通話ボタンを押すだけの状態で準備した。  
寝室を見回し武器になるものを探した。
洗濯物を干すための長い突っ張り棒があったため、それを最長まで伸ばした。
途端勇気がわき、寝室からリビングをこっそり覗いた。  
誰もいない。 静かに電気のスイッチを押した。 パチっと一瞬でリビングが明るくなる。
今なら侵入者に勝てる気がする。
そう思い、スマートフォンを近くに置き、突っ張り棒を両手でしっかりにぎる。
そのまま台所、お風呂場、トイレ、玄関と確認する。  
誰もいない。  
もしかしてリビングの窓から出ていったのだろうか…?
静かにカーテンに近づき手を伸ばした。 シャーーーッ。 なんで……? 施錠されている。
その時、ペット見守り用のWebカメラが目についた。カメラは動体感知で録画を始めるようになっている。

今まで見る理由もなかったため私はその時始めてカメラの映像を確認した。 AM3時20分。
1つの白い虫のようないわゆるオーブが、ふと画面に映る。
次の瞬間、画面を多い尽くすくらいの大量のオーブが、四方八方おのおの動きたい方へ動いて行く。上へ行くもの下へ行くもの、壁に消えるもの。
まるで意思があるように不規則に……。
私は続きを倍速で見ていると、突っ張り棒とスマートフォンを持った自分が現れた。そこで見るのを止めた。  

結局侵入者などはいなかったのだ。
でも私は確かに音も聞いたし気配もはっきり感じた。寝ぼけていたわけでもない。
何より飼い猫は、侵入者をその目で見て怯えたのだ。後にも先にも猫が同じような行動をとった事がない。  

後日談になるが、この体験を話す機会があり、これは心配、と親切な方が知り合いの祓い屋を紹介してくれて、徐霊をして頂くことになった。
徐霊はすぐに終わり「あなたの事を妬み苦しめたい、陥れたいと思ってる生霊だね」と、言われた。瞬間、ある人がすぐに浮かんだ。
祓い屋の方はその人の特徴、性別や年齢、職場などをズバズバと当てた。
言われてみると確かにその人と話すと常に嫌味を言われ、こちらの情緒が不安定になり、私の事が嫌いなのだろうなと思っていた。
生霊を飛ばすまで強い思いだったのか。ぞっとした。

ちなみに余談だが、動物でも霊が見える、見えないがあるらしい。
お祓いの間飼い猫は楽しそうに何かを追いかけ、祓い屋が「終わりました」と言うのと同時に私の膝の上で休み始めたため、貴重なものを見たな、と思った。  

お祓いが済すんでから半年以上経つが、あれから新たに捻挫することも、早朝にひどい頭痛に悩まされることもなくなった。
事件が起きてからしばらくは恐怖で突っ張り棒と添い寝していたが、最近卒業できた。  

自分が恨まれるような事をしていなくても、相手は勝手に恨み妬み、苦しめようとする。
本人も生霊を飛ばしていることがわからないらしい。
これからは恨まれることをしないことももちろんだが、
知らぬ間に相手に生霊を飛ばし苦しめることのないよう、執着心を持たず自分は自分と胸を張って生きていきたい。  

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

閉じる