洋館

 私が住んでいる県には有名な心霊スポットがいくつかあります。
 10代の頃はよく友人と原付に乗って心霊スポット巡りをしていました。

 高3の夏のある夜、友人と一緒に近所のコンビニに行くと、そこにたまたま一つ上の地元の先輩グループがいました。
 久々に会った先輩らと私たちは、しばらく世間話に花を咲かせていました。
 私たちが心霊スポット巡りにハマっている話をすると先輩らも有名どころの場所はほとんど行っていたらしく、色々と詳しい話を聞かせて貰いました。
 すると先輩Aが、 「お前ら◯町の洋館って知ってるか?」 と尋ねてきました。 私も友人も初めて耳にする名前でした。
 何でも◯町の住宅街の一画に年季の入った洋館の空き家があり、買い手が見つからないのか何年も解体されずそのままの状態になっているとの事。
 ローカルの間では『あそこは別物』『近づかない方がいい』などと、かなり不気味がられているらしいです。
 ただ、その家でなにか事件や事故が起きたという話や心霊現象があったなどの噂話は出回っておらず、『◯◯町の洋館』という名前だけが一人歩きしている状態でした。
 Aさんは◯◯町の近くに住む知人から洋館の場所を聞いており、これからその館を探しに行ってみないかと提案してきました。
 私と友人は特に何することもなかったので、面白そうだと思い先輩らに付いて行く事にしました。

 私たちはAさんの車に乗せてもらい◯◯町を目指しました。
 ナビで◯◯町を検索すると今いる地点から約20km、時間でだいたい3〜40分ほどで着く距離でした。
 最近はほとんどありませんが、夏の夜に大人数で車に乗り合わせてどこかに行くという機会はあの当時、とても刺激的で移動中ずっとワクワクが止まらなかったことを今でも覚えています。
 しばらくして、ナビが目的地に到着したことを伝えました。
 辺りはどこにでもありそうな閑静な住宅街でした。
 若干、街灯が少ないせいか少し薄暗かったのですが、それでもとても曰く付きの物件がある立地には思えませんでした。
 Aさんの知人によれば、ナビで着いた場所から少し歩いたところに洋館があるとのこと、なので車をちょっと離れた幅広の車道に停車して、Aさんと先輩Bさんだけ辺りを散策してくる事になりました。
 残された私たちがしばらく車中で談話をしていると、先輩A、Bが戻ってきて言いました。
 Aさん「あったぞ、行こうぜ」 私と友人はついに来たかと思い、車から降りました。
 先輩Cだけは、あまり心霊スポットに興味がなかったのか、誰か車を見とく必要があると言いその場に残ることになりました。

 私たちはAさんの後に付き、細道を歩いていくとそれはありました。
 周りは普通のどこにもでもある様な家屋が並ぶ中、一画だけ古びた洋館が佇んでいました。
 まさしく一目瞭然とはこのことだと思いました。
 近づいてみて、まず私が思ったことはとにかく暗い。 道路に面してるところは街灯によって外観が分かるのだが、敷地内の奥はほぼ何も見えない。
 よく目を凝らして見ると敷地の裏が竹藪に覆われていて、それが周囲の住宅の光を遮り辺りを暗闇に変えていました。
 建物の前には高さ6尺ほどの、上部が槍先の様な形をした重厚な鉄門にチェーンがぐるぐる巻きにされていました。
 外周は生垣で覆われているのですが、正門ほど背は高くなく、少し身を乗り出せば家の中が確認できるほどでした。
 私たちはまず携帯のライトを使って門の外から暗がりを照らして散策することにしました。
 当時はまだガラケーだったので今ほどカメラのライトは明るくはなかったのですが、かろうじて何が置いてあるかは確認できました。
 正門の目の前は庭になっていて、ガーデニング用のネットや支柱が散乱していたり、袋に入った肥料や土などが点々と転がっていました。
 頑張って門から手を伸ばしライトを奥に向けると、意外と敷地が広いことに気がつきました。
 携帯を左右に振りながらしばらく眺めていると少し奥の方に何やら車の様な物体が見えました。
 やや奥行きにあり、はっきりと見えなかったので私は横の生垣から周り込み再びライトを照らして覗いてみました。 そこにあったのは軽トラでした。
 ただし軽トラが単に停まってるのではなく、軽トラの荷台の部分が、半分だけ地中に縦に埋まっており、フロント部分だけが顔を出している状態でした。
 今になっても何の意味があってそんな事をしていたのかさっぱり分かりません。
 とにかく段々と不気味さを感じてきた私は、そこから、この景観を動画に収めようと携帯を録画モードにして反対側の生垣に周った先輩たちの方に行き、洋館の中を覗いてみました。
 幸運にもカーテンや雨戸の様な物はなく内装を確認する事が出来ました。
 中は割と整理されていて、これまた西洋風の茶器や誰が描いたか分からない絵画、部分部分に金をあしらった様な重そうな置き時計などが綺麗にテーブルにまとまっており、まだ誰かが暮らしている様な生活感がそこにはありました。
 すると後方にいたBさんが 「ちょっと俺、気持ち悪くなってきたから先に車、戻ってるわ」 と言ってそこから離れていきました。
 急なBさんの離脱で一瞬、その場に不穏な空気が流れました。
 私たちはもうしばらく部屋を眺めていると、急にキーーンと鼓膜をつんざく様な耳鳴りがしました。
 私はモスキート音を出す機械がどこかに設置されてるのかと思い、辺りを見てみましたがそれらしい物はありませんでした。
 私は耳鳴りがする事を口にすると、Aさんは
Aさん「なぁ!俺もさっきから耳鳴りしてるわ、すっげぇ頭いてぇ、もうそろそろ戻るか?」 と言ったので私たち一向は車に戻ることにしました。

 車内ではBさんとCさんが席を倒して寝ていました。
 Bさんの容体を聞くと少し寝てら回復したとのことで私たちは安堵した。
 私は洋館の周りを携帯で録画してた事を伝えると、Cさんが
Cさん「おっ見せて、見せて」 と言い、私は携帯を渡しました。
Cさん「これ、どのファイルがそうなの?」 と再びCさんが言ってきたので、私は一瞬、 あれ?っと思いました。
 私は携帯をCさんから受け取り見てみると、画面にはファイルが10本ほどありました。

 そんなはずはないのです。
 私はその携帯を買ってから一度も動画を撮ったことがなかったので、洋館の周りを撮ったファイルしか存在しないはずなのです。
 これはおかしいなと思い、アイコンの記録時間をよく見てみると、どのファイルも同じ数字でした。
 しかも、驚くことにその記録時間が1時間を超えていました。
 私たちが洋館を散策していた時間なんて、数十分くらいだったので1時間なんて記録はあり得ないのです。
 バグってファイルが重複されたのか?などとその時は思っていました。
 それはさておき、ファイルの中身を見てみることにしました。

 動画を再生すると私が生垣から軽トラを映しているところから始まりました。
 カメラのライトを照らしても、やはり周りが暗かったので軽トラの白いフロントがぼんやりと見えるぐらいでした。
 そして動画は反対側の生垣に周り、館に近づいたあたりで異変が起きました。
 段々と雑踏の様なノイズが響き渡り、次第に 何と言っていいのか表現に困りますが、画面の横から緑色の線みたいなものが流れてくるのです。
 映画マトリックスを観た人なら分かると思うのですが、冒頭に出てくる緑のコードが落ちてくるシーンの様な感じです。
  館の中を映してる時間にはもう画面全体が緑一色で何も見えなくなっていました。
 それでも動画は録画を止めているはずの時間を通り越して再生時間だけがただただ動いている状態でした。
 私は気味が悪くなり再生を途中で止めてしまいました。
 一緒に観ていたCさんに、 Cさん「お前、呪われてんじゃん笑」 とからかわれました。
 私たちは、あまり住宅街でウロウロしてると 苦情が来るかもしれないと勘ぐって、その日は帰路につくことにしました。

 家に帰ってから私は携帯を見てみると あの緑色の線が待ち受け画面全体を覆っており、ついには電話の機能すら果たさなくなっていました。
 あれから色々な人に聞いてみたのですが、携帯がそういった状態になった人に会ったことがなく原因が分からずじまいでした。
 まぁ、もうガラケーを使う機会がこの先そう無いと思うので今となってはただの思い出話です。

 ちなみにあの夜から数日後、Aさんの車が故障したそうです。
 そんなに無理な運転をしていた訳でもなく、定期的にメンテナンスを行なっていたらしいのですが、調べてみるとエンジンが焼き付いていたそうで、結局その車は修理せずに廃車したとの事です。
 あの洋館に携帯と車の故障の因果関係があるのかは分かりませんが、お金がなかった10代の頃の私にとって携帯の買い替えは痛い出費でした。

 以上が、私が体験した話です。 拙い文章で申し訳ありません。
 お読み頂きありがとうございました。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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