夜更かし

 これは、とある保育士の女性、Tさんが高校生だった時に体験したという話です。

 ある日の深夜、Tさんはだいぶ遅くまで起きていた。 眠れなかったからだ。
 ラジカセから少し高めの音量で陽気な曲を流し、電気をつけたままベッドに潜っていた。
 タッタッタッと、階段を上がってくる足音が聞こえてくる。
「何時だと思ってるの?早く寝なさい」
 そして、部屋の外から母親の声が聞こえてきた。
 Tさんは、それを無視する。 それどころではなかったからだ。

 数十分後、再び母親が小言を言いにきた。 また、それを無視する。 音楽もかけっぱなしにした。
 時刻は深夜1時を過ぎた。 Tさんは毛布にくるまりながら携帯を弄る。
 ただ、黙って自分が昨日やり取りしたメールを見つめていた。
『熱海に到着。お父さんったらハシャいじゃって子供みたい』
 それは、父と旅行に出かけた母からのメールだった。 タッタッタッと、階段を上がってくる足音が聞こえてくる。
「何時だと思ってるの?早く寝なさい」
 降りていく足音は聞こえない。 恐怖を紛らわすため、更にラジカセの音量を上げる。

 Tさんは、ベッドの中で震える事しかできなかった。
 しばらくしてから、Tさんは意を決して自分の部屋を出た。 部屋の外には誰もいない。
 恐る恐る家の中を確めて回ったが、やはり家の中には自分以外、誰もいなかった。

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