好かれる

 この話を聞く前にお願いします。
 この話を聞くと、もしかしたらあなたの身にも私が体験した同じようなことが起きるかもしれませんので自己責任でお願いします。

 これは私の体験した話で、現在進行形です。 私には霊感がありますがこんな妙な経験をしたのは初めてです。
 始まりは、梅雨の季節のコインランドリーにて行ったときです。
 梅雨の時期には洗濯物が溜まりがちになってしまい、家に乾燥機もないので真夜中に近くのコインランドリーに行きました。
 洗濯と乾燥が終わるまでの時間をコインランドリーの椅子に座って本を読んだりして過ごしていました。
 雨が降りしきる中、音楽を聴きながらボーッと外を眺めていました。
 かなりボーっとしていたのか、ドアが開くときのベルの音と気配で人が入ってきたことに気づき我にかえりました。その時は「俺以外にも夜中にこんなとこ来るやつおるんやなぁ」と思っていました。
 でもこの辺から「ん?なんで?」と変なことに気づき始めるんですが、まず私のイヤホンは周囲の雑音とか消してくれる機能があって、音楽を流していればほぼ外の音は聞こえません。なのになんでベルの音が聞こえたのか。
 しかも室内は私1人でした。
 誰も入ってきておらず入り口も閉まったままでした。
「おい…マジかよ」と気持ち悪く思ったのもありますが、普段霊感あればそれくらいあるので無視していました。

 そのあとまた外に目をやるとそこには白いワンピースの女性が立っていました。梅雨の季節、夜中の雨の中、一人で、です。
 すぐにあっち側の人とわかりましたがその姿というか姿勢の異様さに思わずえづいてしまいまったんです。
 少しわかりづらいですが、空を仰ぎ見るように背中を逸らせ、立ったままブリッジするような姿勢で髪の毛を後ろにダラっと垂らせたような格好をして、半歩ずつくらい小さく小さく歩いていました。
 私は幽霊は見慣れていて出ただけではそうそう驚かなくなりましたが、この女の容姿には腰を抜かしてしまいしばらく見入ってしまったんです。
 その時タイミングよく洗濯が終わったのか合図の音が鳴りハッと我にかえりました。
「いやー、久々にびびったー…、見えないふりしてさっさと帰ろ…」と洗濯物を袋に詰め、霊が見え始めたころのドキドキを久々に体感しながら準備を進めました。 その頃にはもう女はいなかったので少し安心して外に出ました。

 ですが帰りの道のことです。
 帰り道に街灯とカーブミラーがあるポイントがあるんですが、雨の日の夜で危ないのでカーブミラーに注目して目をやると、カーブの先からアイツが来るのが見えました。
 あの仰け反って髪の毛を後ろに垂らした姿勢のまま、ザッ、ザッ、と引きずるように歩いてきます。
「うーわ!、追ってきてる…」とパニックになってしまい、思わず引き換えしてダッシュで家に帰りました。
 鍵を閉めてチェーンを掛け、その日は寝ずに朝を迎えました。

 昼間は用心はしていましたが特にアイツは出てきませんでしたが、その日の夜、シャワーを浴びている時のことです。
 私の家は廊下にセンサー付きのライトがあります。人が通れば勝手に付くタイプで、何か動くものがなければ勝手に消えてしまいます。
 そして私の家はユニットバスタイプなのでシャワーを浴びている時、浴室に湿気が籠らないようにドアを開けてシャワーを浴びてます。
 つまりシャワーを浴びている時もシャワーカーテン越しに廊下の電気が付いた消えたくらいは明るさでわかるんです。
 シャワーを浴びている時、廊下の電気が勝手に付いたり消えたりするんです。
 一瞬驚きましたが、「湯気にセンサーが反応して付いたんかな?」と思いシャワーカーテンの隙間から廊下を覗いたんです。

 もう本当に勘弁してくれって思いました。
 あの女が廊下を行き来してるんですよ。もちろんあの仰け反った姿勢のままで。
 しかもコインランドリーのときには気付きませんでしたが、この女、妙にデカいんです。
 自分は180センチくらいありますが、明らかに私よりデカいんです。2メートルはあります。
 もうその容姿の気持ち悪さと家まで上がってきやがったという怒りもあり、自分も我慢できずにその女に話かけてしまったんです。
「なんで俺なんだよ、どっか行けよ、頼む…」と。
 思わず「しまった」と思ってしまいました。話しかけると言う事は「あなたのこと見えてますよ」ってことです。そうなってしまえばヤツらますます寄ってきます。
 上を向いたまま目を私の方に向けて、女はニヤーっと嫌な笑みを浮かべ「ヤットダネー、ウン、ヤットダネー、ミエテル、ミエテル、ミエテルミエテルミエテルミエテルミエテル、フヒヒヒィ」と幼児のような高い声で口を開いたんです。

 その後のことは記憶にないです。
 朝風呂場で裸で目覚めた私は、身支度を済ませて家の鍵無くしたといって友達の家に転がり込みました。
 この後からというもの、私がどこにいてもこの女は付いてくるようになってしまいました。
 家、学校、バイト先、夜のランニング中など場所を選びませんでした。
 さらにこの女の影響だと思いますが、私の身の周りの女性が体調を崩すなどの異変が起きています。
 ですが、最近その女に異変が出てきたんです。
 今までは「ネェ、ミエテル、ナンデ、ネェ、」みたいに私に注意を引かせるような、自身の存在をアピールするような内容を話していました。
 コインランドリーでも、風呂場でも今思えば、私の気を引かせたかったのでしょう。
 ですが最近ソイツが口にするのは「ミエナイ、ツギ、ドコ、ミエナイ、ツギ、ドコ…」です。
 おそらく私が無視し続けたことで私への興味を無くしたのか、私の次を探しているのでしょう。
 別にこの話を聞くとこの女がその人元へ行くってことではないと思います。
 私のように霊に好かれる、魅入られるとこんなにも恐ろしい経験をするんです。

 なのでもし、夜中の街中で白のワンピースで仰け反った姿勢で髪を後ろに垂らしてる2メートルくらいのデカさの異形の女を見ても絶対にこれ以上見ないで下さい。
 あとすぐにその場から逃げて下さい。 今はまだ私の後ろにいますがその女は「ツギ」を探しています。
 これを書いているときも後ろで「ミエテル?、ミエテル?」と声がします。
 その女の探す「ツギ」がこの話を聞いたあなたにならないことを心より祈っております。

 長文失礼いたしました。

朗読: 怪談朗読 耳の箸休め

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