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祖父の兄

私の祖父は、双子でした。兄を仮にM。祖父をTとしてお話します。

祖父から聞いた、ほぼそのままを書きたいと思いますが、あまりにも難解な方言は、一部修正致します。

儂はあの日にの、風邪ひいてからMと遊びに行けんかったんじゃ。いっつも一緒に遊びよる磯じゃったし、Mは泳ぎが達者じゃけん……もしかしたら、盆が近かったけん連れて行かれたんかいの。儂は、起こされて冷たなったMが寝かされての……辛かったわい。

大人になって、戦争が終わってからの。満州から帰って漁師の仕事を手伝いよったんよ。瀬戸内海は穏やかな言うけど、あれは嘘じゃ。島やら海底の岩やらで、潮が渦巻いたり満ち干きで流れがコロッと変わるんよ。

網片付けよる時に、船から落ちてしもての。若かったんじゃの。海をなめとった。すぐに上がれる思とったら、片足を引っ張られたんよ。どんどん沈められて足見たら黒いんが、いっぱい儂の足を引きよるんよなぁ。これはいかんって思とったら、『こっちじゃ、T!』言うて、子供の手が儂の腕を海面向けて引いてくれた。Mじゃ思って黒いのを蹴飛ばしての。気がついたら船の上におった。

Tは、引かれたけん船にあげたら船ごと引かれる言うて、漁師の仕事が出来んけん。塩田手伝うようになっての。

ほんでも気になるけん、Mの命日に磯に行った。Mが死んでしもた磯よな。そこから儂が溺れた沖も見えるんよ。なんかぽーっと光よるんよな。何じゃ?思て目凝らしてみたら、Mがの、あの黒いの捕まえて儂に笑いながら手振りよるんよ。子供のまんまやったわ。

あー、ええ所に行けて、儂を助けてくれた思って嬉し泣いたわ。

そんな祖父も亡くなって30年です。今は兄弟揃って楽しく酒盛りでもしていることでしょう。

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