この話は人から聞いた話。
自衛隊を辞めるとき、場所にもよるけども曹や士が足りないと辞めるまでに雑務をやらされるんだ。
その時、同じ部屋になったやつから聞いた話になる。
そいつ、辞める前にあった演習で穴を掘って防御をやる訓練をしていて、班で必要な数を夏の暑い中、えっちらおっちらと掘ったいた。
穴を掘ったその夜に想定された敵の攻撃を待ち構えるために夜通しで穴に入って警戒をする。
自衛隊にいたことある人だと想像しやすいと思う。
それで穴掘りに慣れていない新米だとし。昼間から日が落ちるまで一気に掘るからヘトヘトになりながら警戒任務をするものだからボーッとしがちになるわけだ。
たまに教官が「居眠りしてるやつは居ねぇが……」とやってくるのも怖いけど、それより前に演習場自体がちょっと曰く付きで、まぁ、自衛隊の基地や駐屯地、演習場に限らず公共施設って曰く付きなところ自体多い中でも、そこの演習場は自殺の名所だとか近くに謎の慰霊碑があるだのお化けが出る区画があるだのと色々な話があった。
そいつがそんな演習場で警戒していると何となく変なものが見えたような気がしてくることもあったらしい。
けど、問題だったのは深夜になってシーンとなったときに足を掴まれる感覚があったこと。
穴ってそこまで広くなくて屈んで頭を抱えるとほぼぎゅうぎゅう詰めになる一人用の穴だったんだけど、足を掴まれるっていうのがおかしかった。
塹壕足になったのかな、と心配になったそいつは下を向くとなんか違和感があった。
手溜弾を蹴り入れる横穴からにゅっと何か出ているように見えたんだと。
それで屈んで見てみるとその手溜弾を入れる小さな穴からにゅっと手が生えていたらしい。
自衛隊には演習場に謎の仏さんが出た話とか隊舎が曰く付きで何か出る話とか割とある話だけども、実際、目にすると固まるようで数秒は状況を飲み込めずに冷や汗をかきながら硬直したんだそうだ。
それでもしかしたらご遺体を引き当てたんじゃないか、と確認しようとしたら、人の声が足下から聞こえてくる。
それで穴の最下層を見てみると、ボコ、ボコ、ボコ、と人の顔が湧いて出てきている。
男も女も色々な顔、顔、顔。
しかも、足を掴んでいる腕の先がずるっ……ずるっ……と出始めてきていたのだとか。
それで「あっ、これ、不味いやつだ」となって、足を掴んでいる腕を振り払って死ぬほど急いで穴から抜け出したんだとか。
本人曰く、ギリギリの理性で絶叫しなかったことだけは自分を誉めてやりたいだとか。
叫んでいたら別のリアルな鬼(教官)を呼んでしまっていたから。
それでそいつが教官に「出た! 出た!! 出ましたぁ!!!」と報告したのだけども、教官は「なに言ってんだ」と言う顔で話を一通り聞いてくれたそうだ。
それで「お前な。仕事中だぞ? 分かった。俺が確認してやるからお前、気が済んだら任務に戻れ」と言って一緒に確認してくれたそうだ。
そして、教官が例の穴に入って点検してから少し黙って、ドンっと穴を踏みしめてから笑顔でそいつに言ったらしい。
「別に何も居ねぇぞ」と。
それからそいつはビクビクしながら演習を終えて帰ってから元々参ってたメンタルが更に参って辞表提出という流れだったとか。
そういう自衛隊であったらしい。どこかは色々問題あるし、特定されたくないからボカすけど。