公園の滑り台

 小学生の頃の話。

 当時通っていた小学校の近くにある小さな公園に、敷地に合ってない大きな滑り台があった。
 地元では有名で、日中は沢山の子供達で賑わっていた。もちろん俺も放課後はその公園に行くのが日課でした。
 しかし、子供達が集まる場所には、都市伝説がつきもの。その公園にも都市伝説があった。
 滑り台を6時に滑ると、異世界に連れて行かれて、帰って来れなくなる。という子供騙しのような都市伝説だった。

 その日も、放課後に公園で遊んでいた。
 5時のサイレンを合図に、子供達は一斉に帰宅し始める。
 いつもその時間には帰り始めるのだが、話が弾み、夢中でお喋りをしていた。
 すると1人が「やっべ! 門限過ぎる! 俺帰るわ!」と言ったので、公園の時計を見ると、5時半を指していた。
 友人達は一斉に帰り始めた。その時俺は、都市伝説を思い出して一人の友人Kの腕を掴み、「なぁ、ここの都市伝説本当かどうか調べようぜ!」と誘った。
 Kは渋い顔をしていたが、なんとかOKしてくれた。他の友人にも声をかけたが、みんな都市伝説より親を怖がり、結局2人だけで調べることになった。

 そして、滑り台の上でおしゃべり再開。
 さっきまで明るかったが、見る見るうちに薄暗くなっていった。会話が弾まなくなり、やがて2人とも沈黙した。
「帰りたい」という言葉が頭をよぎっていたが、強がって言い出せずにいた。Kもそうだったに違いない。
 6時まで1、2分というところで、Kがジャンケンでどちらが先に滑るかを決めようと言ってきた。
 結果Kが先に滑ることになった。 そして6時の音楽が鳴った。
 勢いよくKが滑っていく。何事もなかったのか、滑り終えたKは、大声で「おーい!こっちこいよー!」と叫んでいる。
 その声に安心し、「おう! 今行く!」と滑ろうとしたその時。
「コラ! あんたたちいつまで遊んでるの!」 と母が怒鳴り込んできた。
「後一回滑ったら帰る!」と言ったが、「ダメ! 降りてきなさい!」とすごい気迫で言われたので、滑らずに階段で降りた。
 母は友人へ駆け寄り、「もう、〇〇君! こんな時間まで遊んだらダメでしょ!」と怒鳴っている。
「おーい! こっち来いよー!」と叫び続けるK。
「何言ってるの! お母さんに連絡するからね!」と母はKのお母さんに電話をかけた。
 俺もKに駆け寄り、「ごめん! 滑れなかった! またいつか滑るから許して!」 と謝った。
 Kは俺に目もくれず、滑り台に向かって「おーい! こっちこいよー!」と同じフレーズを何回も何回も楽しそうに叫んでいる。
 そしてまもなくKの母が到着。
「すみません、わざわざお電話いただいて!」 と、俺の母にお礼を言い、まだ叫んでいるKの腕を強引に引っ張り、Kを叱りながら帰っていった。
 家に帰るともちろんこっぴどく叱られた。 両親の怒号が耳に残り、その日はうまく寝付けなかった。

 次の日登校すると、Kは体調不良で休みだった。
 昨日滑らなかったこと怒ってるのかなと申し訳なく思った俺は、その日の放課後、Kの家に向かった。
 インターホンを鳴らすと、Kの母が出てきた。
「あら、〇〇君じゃない。どうしたの?」
 髪はボサボサで声は掠れており、ひどく疲れているようだった。Kに会わせて欲しい旨を伝えると、「あのね、Kはすごく気分が悪いみたいなの。〇〇君に、、、、」
「わ、わかりました! ごめんなさいっ!」と話を切り、ダッシュで家に帰った。
 それからKは学校に来ないまま二週間後に、急に転校してしまった。
 何度もKの母のケータイに電話をかけてみたが電話に出ることはなかった。やがてコールすら鳴らなくなってしまった。
 放課後1回尋ねたきり、Kの家には行っていない。いや、行けなかった。
 Kの家を尋ねた日、玄関先でKの母が話していたその奥で、それは聞こえていた。
 最初はテレビの声かとも思ったが、はっきりとその声が聞き取れた。
「こ っ ち こ い よ ー」
 叫ぶというより、唸るような低い低い声だった。あれがKだと信じたくはない。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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