鬼のトンネル

 僕が小学校一年生のころの不思議な体験です。

 当時、両親は共働きで僕はよく父方の祖父母の家に預けられていました。
 夏休みのある日、祖父母の家で昼寝をしていると、やけにはっきりした夢を見ました。
 30を過ぎた今でも鮮明に覚えています。 夢の中で僕は友達と遊んでいました。
 その「友達」というのは、夢の中では友達と認識しているのですが、顔も名前もわからない女の子でした。
 夢の中でその女の子に誘われ「トンネル」へと向かいました。
 トンネルへと到着し、女の子が先に入って、中から手を招きながら呼んでいるのですが、僕はトンネルへと入ることができませんでした。
 理由は、トンネルの入口の両端に、大きな「鬼」のような者が立っていて怖くて入れなかったのです。
 しかし、「鬼」が何もしてこないことが分かり意を決してトンネルに入りました。
 すぐに「友達」を探しましたが、もう先に行ってしまったらしく見当たりません。
 そしてそのトンネルの中というのが異様なものでした。
 岩山を貫いて作ったようなトンネルは壁面が波打つような形でできていて両横に人が通れるほどの無数の穴が開いているのです。
 その中で「友達」を探して回っていると、その横穴から突然細い腕が出てきて僕の腕を掴みました。

 ここで目が覚めました。
 目が覚めると「怖い」という感情と「友達」がいなくなった寂しさから声をあげて泣きました。
 すると祖父が来てくれてどうしたのか? と聞いてくれたので、僕は夢のことを話しました。
 話を聞いた祖父は、「それは、○○トンネルのことかもな」と言い出しました。
 そのトンネルは、近い場所にはあるのですが、小学校低学年が行くには少し距離があり、場所そのものに縁がなかった為、知りもしないトンネルでした。
 祖父が「行ってみたか?」と聞いてきたので、僕は二つ返事で「行く」と答えました。
 夢から覚めたばかりなのが原因なのか、まだ友達がそこにいるかもしれないという妙な期待感がありました。

 祖父に車に乗せられ、10分ほどでその場所には着きました。
 そこは、川沿いの住宅地から少し山には入った場所にありました。
 祖父に「ここか?」と聞かれ、思い出しながらトンネルを見てみましたが、よくわかりませんでした。
 祖父と共に車を降り入口に近づいたときに、僕の背筋に緊張が走りました。
 入口の両端には鬼の顔をした80㎝位のお地蔵様が二体置いてあったのです。
 直感で「ここだ」と思いました。 祖父と共にトンネルに入るとさらに驚きました。
 夢で見たような「横穴」が無数に開いており、それを木の板で塞いでいたのです。
 僕は怖くなりトンネルを出て帰路につきました。

 帰りの車の中で祖父がトンネルの話してくれました。
「あのトンネルは、戦時中に沢山あった防空壕だった場所を、横から貫いてトンネルにしたものだ。だからあんな風に横穴が開いているんだよ。人が死んだなんて話は聞いたことはないが、ああいう場所には何か住み着いたりしてしまうのかもしれないね」
 その後何か悪いことが起こったとかはありませんが。 中学生になったときに、そのトンネルが中学校の正面にあることと、マラソン大会のコースに含まれている事を知り、なんとも言われぬ気持になったのを覚えています。
 住み着いているかもしれない「友達」に、僕は呼ばれたのでしょうか。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ
朗読: かすみみたまの現世幻談チャンネル

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