胡蝶の夢

 つい先日の話です。

 私は子供たちを寝かしつけるときによく一緒に寝落ちしてしまうことがあるのですが、浅い眠りからか、1時間ほどで目が覚めてしまいます。
 先日も、仕事とワンオペ家事育児でヘロヘロになり、子供たちを寝かしつけていました。

 やはりと言うべきか、いつの間にか意識がなくなっていました。
 そしていつものように、暫くしてからハッと気付くと、私は何故か真っ暗な一階のリビングに1人で佇んでいました。
(あれ? 確かまだ夫は起きていて、リビングにいたはず……)
 お風呂かな? と思い、お風呂のある方向を見ましたが、変わらず真っ暗。

 ここで、おかしなことに気付きました。 全くの暗闇なので、辺りは何も見えないのです。
 それなのに、私は何故だか「一階のリビングにいる」と確信しています。
 なんだかおかしい。ヤバい気がする。……そうだ! 子供たちは!? と慌てて二階の寝室へと向かいました。
 もちろん辺りは全て暗闇。 頭の中で家の構造を思い浮かべて、手探りで階段を見つけ、駆け上がりました。
 寝室に辿り着くと、閉めたはずのカーテンは全開になっていて、月明かりが差し込んでいます。
 月明かりに照らされて眠る子供たち。 そして、それを見下ろす、影。
 その影は人の形を辛うじて整えているような……なんとも言えないぐちゃぐちゃな形をしていました。

 なんだアレ……。
 一時思考停止に陥り凝視していると、本来膝があるような場所から、二つの眼が浮き上がり、ギョロリとこちらを睨みつけたのです。
 その瞬間、私は何かに弾かれたかのように、その不気味な何かの目の前に飛び出していき、子供たちを守る体勢をとりました。
「連れて行かせない! 絶対ダメ!」と叫びました。 何度も何度も、「ダメ!」「絶対に!」「子供たちはダメ!」と、泣きながら叫び続けました。
 そうこうしていると、「起きろ!!」「どうした!」と言う夫の声と子供たちの泣き声が聞こえて、目が覚めました。
 目の前には心配して私を覗き込んでる夫と子供たちの姿が。 私は子供たちの無事に安堵して、号泣しながら抱き締めました。

 どうやらかなりの大声で叫んでいたらしく、子供たちも泣き叫んでいたので、驚いてお風呂から駆けつけたということでした。
 子供たちに起こしてごめんねと謝り、再度寝かしつけ、落ち着いてから夫に事情を話しました。
 一階に私が降りてきた気配もなかったし、怖い夢でも見たんでしょ……と言われましたが。

 私にはひとつだけ、気になることがありました。
 閉めたはずのカーテンが全開になっていたこと。 そして、窓と網戸が少し開いていたこと。
 あれは、夫がいうようにただの夢だったんでしょうか? それとも……。

朗読: かすみみたまの現世幻談チャンネル

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