地続きの感性

 カナダ在住の友人から聞いた話です。

 友人の名前を仮にAとします。
 Aは現地の大学の出身ですが、その前に語学学校に通っていた頃、日本の女子大から留学してきた学生数人と交流がありました。その中でも特に、BとCという女子とよく一緒に行動していたそうです。  
 Bはそれほど英語が得意ではないけれど、海外や欧米的なものへの憧れが強いタイプ。対するCは英語が堪能で、他の国の人たちと打ち解けるのも早い方でした。
 慣れない海外生活において、同胞の存在はとても心強いものです。
 勉強で助け合ったり、一緒にショッピングや遊びに行ったり、沢山の思い出があります。
 その中でもAにとって一番印象に残ったのは、日本食が恋しくなった友人たちと鍋パーティーをしたときのことです。

 材料に大きな魚を一匹まるごと買ってきて、BとCの二人で苦労しながら捌きました。料理しながら2000年代のJPOPを流し、みんな「懐かしい〜!」と盛り上がったのを覚えているそうです。Bは某青春アニメ映画に楽曲を提供したことでも有名なバンドの曲がお気に入りで、歌詞が泣けるんだと言って口ずさんでいました。
 そんな風に、留学中Aや他の日本人、それ以外の国のクラスメートたちと共に仲良く過ごしていたBとCですが、彼女たちが帰国して何年も経ってから、Aはある一連の事実をCから聞かされます。
 Cはカナダにいる間中ずっと、Bから嫌がらせを受けていたそうです。それも他に人がいないときに、面と向かってはっきりと攻撃される形で。
 あるときはCのネイルを見て、「何それすごーい! 自分でやったの? 私だったら絶対恥ずかしくて人前出れないw」 と言い放ったり、他の国の友達の前では仲良さげに振る舞っていたかと思うと、日本の女子大のメンバーだけになれば人が変わったように冷淡な態度を取ったり……。
 そしてAが最も衝撃を受けたのは、Aも含む5〜6人の友人たちとテーブルを囲んで座っていたとき、皆に見えない角度から、Bがテーブルの下でCの太腿をぎゅーっと強くつねっていたことがあるという話でした。
 その場に居合わせたAは、Bのそんな所業に全く気がつかなかったといいます。リアルタイムで暴力を行なっていながら平然と振る舞えるBも驚異ですが、それに何食わぬ顔で耐え続けられたCをも少し奇妙に感じます。
「えー、そんなことがあったなら言ってよ! 全然気づかなかったじゃん」 とAが言うと、Cの返答は 「Aや他の子とは普通に仲良くしてたから、私たちのことで空気を悪くしてみんなに迷惑かけたくなかった」 というものでした。同調圧力、恐るべし。

 さらに恐ろしいのは、同じ女子大の子たちはそんなBのCに対する仕打ちを知りつつ、何事も無いかのように二人と付き合い続けたということです。
 今思えばBは、日本人女子グループのボス的な立ち位置だったのかもしれません。
 Bは一体何がしたかったのでしょう。自分より語学力が高く、外国人とのコミュニケーションも上手いCへの嫉妬からくる行動だったのでしょうか……。
 或いは、「ちょっと英語ができるからって調子に乗るなよ」という牽制だったのかもしれません。それにしても、本人にはあからさまな悪意を向けていながら、完全に仲間外れにはせず表面上の付き合いを続けたのは、どういうつもりでしょうか。
 A曰く、BにはC経由で仲良くなった白人の友人などが多かったから、その人たちを失うのが惜しくてCを繋ぎ止めていたのだそうです。

 大学を卒業し、とうにBとの縁が切れた今では、Cも無事で元気に過ごしています。そして風の噂によれば、Bは結婚したそうです。
 それを聞いたAが久しぶりにBのSNSを開いたところ、生まれたての赤ん坊を抱いて微笑むBの画像が目に飛び込んできました。

「第一子出産しました!️ 元気な女の子です。生まれてきてくれてありがとう。健やかで、思いやりのある子に育ってほしいな」

 そこに添えられた文章を目にしたとき、Aは思わず背筋が寒くなったそうです。
 いじめや悪質な嫌がらせは多くの場合、人当たりが良く周りから好かれている人間がするもので、彼ら彼女らはサイコパスでもなんでもありません。我が子の幸せを願ったり、心温まる歌に感動する心を持っている人々です。
 そして、そういう人たちが自らの正義を貫き居心地の良い世界を維持するために、異質なものを排除する行為としていじめや嫌がらせをします。
 そのことを念頭に置いて、社会のデザインや構造を考えていかなければならないと私は思います。

 少し説教臭くなってしまってすみません。話は以上です。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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