チャイルドシート

 私の家族は誰一人として「霊感」という程の強い力は持っていないのですが、よく怪異に遭遇します。
 今回はその中でも私のお母さんが体験した話になります。

 当日私は5歳ぐらいでお母さんは歳の近い叔母さんと仲が良く、私を連れて叔母さんの家に頻繁に遊びに行っていました。
 その日は、叔母さんの家で遊び疲れて寝てしまった私を叔母さんが預かってくれることになり、お母さんは一人自転車に乗って自分の家に帰る事にしました。
 時間は夜中の1時から2時ぐらいで真っ暗な中、当時付き合っていた彼氏と電話をしながら自転車を走らせていました。

 街灯も少ない道を走りながら他愛ない話で盛り上がっていた時、不意に自転車にドスンと重みを感じました。
 真っ暗な中、その原因を確認することが出来ず不思議に思いながら走り続けて何本かの街灯の下を通りました。
 何気に照らされた自分の影を横目に見た時、 自分の後ろ、当時主流だったあみ籠のようなチャイルドシートに子供が姿勢よく座っていたのです。
 もちろん娘の私は叔母さんに預けているので誰も乗せているはずがありません。 しかし座っている子供の影は、首から上が綺麗になかったのです。
 何本も通る街灯の下、ずっと光が後ろの子供の影を写しており、確かにそこに座っていることを表していました。
 恐怖で後ろを振り向くことが出来なかったお母さんはパニックになりながら、繋がったままの電話にただひたすら
「切らないで……お願い……切らないで……子供が……子供が……」と繰り返し、ペダルを踏む力を強めてただひたすら家路を急ぎました。
 もうすぐ家が見えるという頃、再びドスンと自転車が軋むと、感じていた重さが消え軽くなりました。
 恐怖でいっぱいだったお母さんは家に着き、自転車を飛び降りるように停めると振り返ることも無く家に駆け込みました。
 彼氏にことの説明をして電話を繋げたまま夜を過ごしました。

 朝、外に様子を見に行くと夜に停めたままの状態でそこに立っていた自転車は、チャイルドシートがまるで大きな石で押し潰されたかのようにぺっちゃんこになってしまっていました。
 走っていた時に見た子供はちゃんと座っており、チャイルドシートを潰すほどの重さや、衝撃はありませんでした。

 その後しばらくは特に何かが起こる訳でもなく、いつも通り過ごしていましたが、結婚して引っ越した先で初めて会った人や、久しぶりに会う友人にたまに「あれ? さっき一緒に娘ちゃん以外に小さな子いなかった?」と聞かれるそうです。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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