睨む女

 もう10年くらい前の話。
 この事以降、特に私の身に何か起こったとかはなく、もしかしたらもう時効かも? と思ったので、少し書き起こしてみようと思います。

 当時、夕方のウォーキングが日課になっていた私は、いつものように母と軽く歩きに出かけました。
 その地域は、もともと祠やら鳥居やらそういうものがちらほら点在しており、その中の一つで、大きな鳥居がある道も通学路にはなっているものの、日が暮れてからその周辺を歩く人は少ない道で、両側を林?に挟まれた鳥居の前を、日が沈む頃に通りがかった私と母は、正面から人が歩いてくるのを見たんです。
 まだ真っ暗で辺りが見えないほどでもなかったため、母が手に持っていた懐中電灯もつけずに、初めは自分達と同じウォーキングの人かなと、特にきにもしませんでした。
 ただその日のその時間帯は、偶然、車の往来も一切なかったにも関わらず、その女性は、ぼんやりと光って見えていたんです。
 距離を詰めるにつれて女性が歩いてくることに気がついた私と母は、ぶつからないように道路側に寄ったのですが、どうにもこちらに向かってくる女性が、自ら発光しているかのようにぼんやりと白く光って見えたのです。
 その時にこれは何かがおかしいと気づいたのですが、突然来た道を引き返すわけにも行かなかったので、そのまま足を進め、女性との距離が縮まって行くのを、悪寒とともに全身から滲み出る変な汗と恐怖心に、心の中で「多分人、多分人……人……人!!」と唱えながら、耐えるしかありませんでした。
 だんだん女性の容姿も見えるようになりはじめ、身長は170cm程度、暗いオレンジ色で無造作にカールした短めの髪に、発光して見えた膝下までの白いワンピースのような服、足は裸足、顔は青白く、目は瞳孔が普通の人より開いて大きく見えました。
 すれ違う直前に、鳥居側を歩いて来た女性とすれ違った母は、すれ違った直後、彼女に気づかれないくらい小声で、私の耳元に「ものすごい形相で睨まれた」と言ってきました。
 私は、言いしれぬ恐怖心から彼女の目を見ることが出来ず、汗で濡れた手をパーカーのポケットの中で握りしめて俯きながら、彼女とすれ違いました。
 何か見てはならない気がしたんです。
 鳥居の目の前でその女性とすれ違った直後、早くこの場から逃げたい、家に帰りたいという気持ちと、人とは思えないようなものを見た、という恐怖心から、気持ち早足になりながら、走らないように女性と距離を取りました。
私は勇気がなかったのですが、母が振り返ると、鳥居の前以外は見通しもある程度良く、一本道なのに、先程すれ違ったはずの女性がいないと言い始めたのです。
 その瞬間、私と母は、自分たちが見たものが人間ではない何か、と思い、恐怖から全速力で走って帰宅。 私の兄にそのことを話しました。

 兄は当時働いていたバイト先の後輩にその話をし、後輩の彼が父親にその話をしたところ、彼のお父さんも同じ見た目の女性を、同じ鳥居の前で日が暮れる頃に見たことがあると聞いたそうです。
 兄はすぐに友人と写真を撮りに行きたいと言い出し、私と母がその女性を見た時間、場所をメモに書いて、家を飛び出しました。
 数時間して、夜中に兄が帰ってきたのですが、「しばらく粘ったけど、会えなかった」と、その女性には遭遇出来なかったらしく、パソコンで先程撮ってきたという、現場写真を整理しながら、「何も見つけられなかった」と頭を抱えていました。
 私も気になって兄の撮ってきた写真を見ていたんですが、どうやら鳥居をくぐった先の階段を登ると、祠があるらしく、祠の両側に中くらいの茂みがあり、右の茂みの下から青白く骨ばった人の左手が覗いていたのは、私しか気づいてないのかもしれないと思いました。
 今はもう当時使っていたパソコンも壊れて廃棄したのか、覚えていないのですが、USBもなく、写真がどこにあるのか、廃棄したパソコンと一緒に捨てたのか、データの在り処はわかりません。
 それまではそういう霊感的なものは全く感じることも見ることもなかったのですが、今思えばその時からそういうものが、たまに見えたり、聞こえたりし始めたのかもしれません。

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