獣の足音

 これは私が小学生のときの話です。

 夏休みのある日のこと。
 当時、2階建ての家に住んでいた私の家で、美人で明るいネズ(仮名)、クールで冷静なイヌコ(仮名)という友人らと一緒にお泊り会をすることになりました。
 外は晴れているのに、私たちは夕方まで家の中でゲームをしたり、おしゃべりを楽しんでいました。

 不意に家の中での遊びに飽きた私はなぜか 「こっくりさんをしよう!」と言い始めます。
 好奇心旺盛な小学生の私たちの中に止める者は居らず、 テレビドラマなどで得た知識を使い、見様見真似で こっくりさんを招くための準備を始めました。
 赤いペンで鳥居のマークを描いた白い紙に、 あいうえお……とペンで平仮名を書いていきます。
 10円玉に指を乗せた3人は頷き合い、 「こっくりさん、こっくりさん、いらっしゃいますか?」 と質問をすると、ゆっくりと動き紙を滑る10円玉。
 静かに「はい」と答えた10円玉に笑みがこぼれた3人は、 さらに質問を続けます。
 私、ネズ、イヌコの順番で質問をして、 私の2巡目が回ってきた時でした。
 突然、雷が鳴り響き、先程まで晴れていた空は曇り、 ザアザアと激しい雨が降り始めたのです。
 ただの夕立だったのかもしれませんが、 私たちは驚いて10円玉から手を離してしまいました。
 怯える私とネズに、イヌコが「じゃあ違う遊びをしようか」 と提案をした時でした。
 私の背後にあった2階へ続く階段から、 「トットット……」と軽やかに猫が階段を上っていく音が聞こえたのです。
 私は、当時飼っていた琴という名前の三毛猫が2階へ上がっていったのだと思いました。
「そうだ! 琴ちゃんと遊ぼう! 連れて来るね!」そう言ってすぐ、 2階へと追いかけていく私。
 しかし、2階へ上がった私は「え……」と声を漏らします。
私の住んでいた家の2階は行き止まりになっていて、 両側にある私と弟の部屋の扉は閉まっていたのですが、 猫の姿はどこにも見当たりません。
 首を傾げながら1階へ戻ると、 「ごめん〜、なんか聞き間違いしちゃったみたい!」と告げる私に、 青ざめた顔でネズが自分の足元に指をさしました。
「ずっといたよ……」
 そう言ったネズに、私は意味がわからず「え?」と聞き返します。
「だからね? 琴ちゃんはずっとネズの足元で寝てたんだよ!」
 そう言ったネズの声色には恐怖が滲んでいた気がします。
 見てみると、ネズの足元には、確かに琴が丸くなって眠ってました。 私の家に琴以外の動物は飼っていません。
 得体のしれない恐怖でだんだんと足元から力が抜けていく私と、イヌコの目が合います。
「じゃあ、さっきの足音は……?」
「私たちも聞こえたんだよ。だから聞き間違いじゃないと思う」
 そして、「きゃああああああ」という甲高い悲鳴を上げた私たちは、 それ以降、こっくりさんをしなくなりました。

 あれから引っ越して、その家がどうなったのかわかりませんが、 あれはこっくりさんでこの世へ呼び出されたキツネの霊が さまよった挙げ句、帰り道を探していた音だったのかもしれません……。
 もしかしたら、今も。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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