ある空気の澄んだ夜、中学生の息子と二人でマンションの屋上に星空を観察しに行った。
屋上の床に仰向けになると、視界すべてが星空になって、宇宙空間を漂うかの様に錯覚した。
その昔、天文少年だった私は、星や星座の名前、宇宙に関するロマンチックな話を息子に語った。
暗闇に目が慣れてくるにつれ、見える星が増え、息子が薄雲だと思っているものが天の川だと教えると、「あ、あれが噂の天の川っ!?」などと、滑稽に感動したり、時折、ヒュンと天球を横切る流星に感嘆の声をあげたりと、親子で夜のひと時を楽しんでいた。
ふと、視界の左隅に動く何かを感じた。
そしてそれは、すーっと滑るように、結構なスピードで視界中央方向に動いていた。
真っ黒な物体。暗闇の中の黒い物体は、形や大きさ、距離感も捉え辛かった。
なんとなく楕円のような塊で、見た目にはカラスぐらいの大きさに感じたが、距離が全くつかめないので実際の大きさは見当が付かない。
そしてそれは、ちょうど視界の中央に到達した時、まるで「はっ!見つかった!」とでもいう感じで、Uターンというより、カットバックするように今来た方向に猛スピードで消えていった。
5秒ほどの沈黙の後、息子が「今の… 何?」と、星空を見上げたまま聞いてきた。息子にも見えてたのか。
そういえば、私があれを初めて見たのも、ちょうど息子と同じぐらいの歳だった。
私は、今は亡き母と見た。
私も母に「あれは何?」と聞いた。
その時、母が私に行ったことを、息子にそのまま受け売った。
「UFOが、自ら見つけてくれよとばかりにキラキラして飛んでるわけないだろう、本来はああやって闇に紛れて活動しているんだ」
10秒ほどの沈黙の後、息子が「なるほど」と、星空を見上げたまま呟いた。
自宅に戻り、息子が我がヨメに、事の一部始終を説明するも一笑に付されていた。
けれど、私と息子は三日後、またそれを見た。
今度は、夕暮れの茜の空に紛れていた。
「紛れるならば、もっと上手く紛れればいいのに」と、息子が呆れるように夕闇に包まれていく空に言い放った。