祖母ノ家

 この話は私が小学校低学年の時に体験した恐らく心霊体験というものです。

 父は超がつくほどのド田舎出身で、私たち家族は毎年盆と正月になると福岡市から近くのコンビニまで、車で1時間程度かかる父の実家に帰省していました。
 祖父は既に他界しており、父の実家には祖母のみが住んでおり、その近所に父の兄とその家族が住んでいます。
 都会で生まれ都会で育っていた私にとっては祖母と会うよりも、2歳上の父の兄の息子のDと川で泳いだり、山で虫取りをする方が楽しかったので、父の実家には行かずにすぐに父の兄の家に行ってました。
 しかし小学校低学年の時に、科学系の番組を見て科学にはまっていた私に父が「俺が昔持っとった天体望遠鏡やるよ」と言われ、その年はDと遊ばずに父の実家に天体望遠鏡を取りに行きました。
 父の実家は築100年は経っており、玄関から居間に続く廊下は歩く度にギシギシと音をたてる程古く、どこか壊れる度に亡き祖父が修理していたため、ハ〇ルの動く城のようなツギハギの家でした。
 着いてから家の側の納屋にしまわれていたという天体望遠鏡は、日が暮れるまで探しても見つからず、物置部屋となっている2階の部屋にあるだろうと言うことになったのですが、祖母は足腰が弱いのでもう何年も2階に行っておらず、2階への階段は埃が大量に積もっていたので今日は泊まって明日探そうということになりました。
 私はまだ建てられてから30年ほどしか経ってない父の兄の家の方に泊まりたかったのですが、祖母が嬉しそうに夕食を用意しながら、「部屋片付けとくばい」と言うので、この家は嫌だともいえず父の実家に泊まることになり、Dが私たちが使う布団を持ってきてくれた際に一緒に泊まろうと言ったのですが、「絶対やだ。怖いもん。1人で頑張れ!」と言い残して帰って行きました。
 私は最初何を言っているのか分からずDは古い父の実家が寝ている間に崩れることを恐れているのだと思い、この家は崩れるかもしれないのか? と不安になりました。
 が、いざ敷かれた布団に入ると、寝ている部屋の枕側のガラスのサッシから綺麗な星空が見えて、不安な気持ちもなくなりしばらくしたらいつの間にか寝てました。

 ふと夜中にガタガタと音が聞こえて、目を覚ますとガラスのサッシの向こうに人影がありました。
 その影はサッシに手をついて揺らしながら「遊ぼう、遊ぼう」と繰り返し呟いており、私は従兄弟かと思ったのですがよく見るとその影はオカッパの髪型をしていて、従兄弟じゃないなとすぐに思いました。
 しかしまだ幼かった私は近所の子だと思い「夜遅いから今は遊べん」と言いました。
 するとにゅっと別の影が3人ほどオカッパの影の横に出てきて、同じように手をついてサッシを揺らしながら「遊ぼう遊ぼう」と言い出しました。
 しかし私は他の近所の子だと思い、ぶっちゃけ遊びたい思いもあったので、隣の部屋で寝ている父と母に遊びに行く許可を取りに行こうと布団から立ち上がって、動けなくなりました。
 よく見るとガラスのサッシの向こうにまだ人影が立っていたのです。それも1人ではなく、20人以上の大人の影や子供の影が立っていました。
 流石にこの状況が異常であることがわかったのですが、逆に恐怖で動けなくなり固まっていました。
 するとサッシの子ども達が突然サッシを両手で叩き初めて「遊んで、遊んデ、アソンデェェ!」と甲高い悲鳴のような声を上げ始めました。
 限界だった私は一瞬で布団に飛び込んでくるまって震えてました。
 その間も子供達はサッシを叩きながら叫んでいたのですが、次第にサッシを叩く音が弱くなり甲高い叫び声も、かすれて小さくなってきました。
 私は今の内にこの部屋から出れるかもと思い、布団を少しあげてサッシの方を見ると、サッシの外が夜中のはずなのに、夕焼けのオレンジ色のような色をしており、サッシについていた子供の手がボロボロに崩れながら消えていきました。

 私は泣きながら部屋を飛びだし、サッシを叩く音がしていたはずなのに爆睡をしていた父と母の布団にダイブしました。
 父と母は驚いて何事かと聞いてきたので、「影が遊ぼうって叩いて、影がいっぱい」などとパニックになりながら説明すると父と母は私が寝ていた部屋に行き、「大丈夫よ、なんもないよ」と言うので、部屋を見るとサッシには人影はなく綺麗な星空が見えていました。
 結局私の夢と言うことになったのですが、次の日Dがにやけながら「お前も見たんやろ?」と言われたので、僕が頷くと「あの箱な、あの家探してもどこにもないんよ」と言ったので「箱?」と言うと「箱から知らんおっさん出てきたやろ?」と言われたので驚きながら「違うよ! いっぱい人影が出てきたんよ」と言いました。
 それを聞いたDは、自分は寝ている時に起きたら部屋に舌切り雀に出てくるような大きな箱があり、なんだと思って近づくと、中から紺色の着物をきたおじさんが出てきて急に突き飛ばされたと説明しました。
 私と従兄弟で全く異なるその体験をしたことを知り、お互い怖くなってその話をするのを辞めました。

 しかし数年後、祖母が亡くなり、父の実家に親戚が集まることになり、東京いる父の姉一家も福岡のド田舎に帰ってきました。
 大人達は遺品整理をする中、高校生の父の姉の娘のNとDと私の3人で例の部屋を掃除している時、ふとNが「昔この部屋泊まった時に「私実はここで幽霊見たことあるの」と言ったので、ドキッとしながら「どんなやつ?」と聞くと
「ここに泊まった時、夜に名前呼ばれて外見たら知らないおばあちゃんが立ってて誰だろうと思って見てたら、こっちに歩いてきて自分の髪の毛を引きちぎりながら声上げて笑ってたの、それで怖くなって急いでお母さん呼んで来たら誰もいなかったの! あれ絶対幽霊だよ!」と。
 私とDが、体験したこととは違う体験を告白をしました。
「マジで? 俺も実は……」と興奮しながら自分の体験したことを言おうとすると、「そんなん夢に決まっとるやろ! 幽霊なんかおらん」とDが突然叫びました。
 驚いてDを見ると、不機嫌そうに「しょうもない話せんで手を動かそうや、タンス運ぶの手伝って」と言ったので、その話はそこで終わりました。
 その後は掃除や親戚への挨拶などで忙しくDと話せませんでしたが、帰る前にDと2人で話す機会があり、Dと祖母との思い出話をしていたところ、「そういえばNの話多分夢じゃないよ。お前も突き飛ばされたんやろ?」と言うと、先程まで笑いながら話をしていたDは突然真顔になり、静かに「あの家はなんもない。それでいいんよ。お前ももうあの家に泊まることも無いけん、夢ってことにしとけ」と言われました。
 まるでそうしないと何かまずいような言い方に私はとまいどいながら頷くことしか出来ませんでした。
 帰りの車の中であの付近で昔人が死ぬような何かがあったのかと聞くと、父は首を傾げながら「聞いたことない。起きたなら狭い村だからみんな知ってるはず」と言われました。
 今でもあれがなんだったのか、現実なのか夢なのか、Dになにがあったのかは分かりません。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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