そんなの効かないよ

 これは私が産まれる前に母が体験した話です。

 母は当時少しボロいアパートに住んでおり、そのボロさは人が外の階段を昇り降りするときの音がかすかに部屋まで聞こえてくるほどだったそうです。
 その日も誰かが階段を昇る音が聞こえてきました。
 いつものことなのですがその日は妙に気になり、なんとなく聞き耳を立てていたそうです。そしてその歩く音は母の部屋の前で止まりました。
 少ししてインターホンが鳴りました。そして母が玄関のドアを開けるとそこには誰もいません。
 イタズラかと思い部屋に戻るとまたインターホンが鳴ります。しかも今度は連続で鳴り続けました。
 当時、病院で働いていた母は「ああ、連れて来ちゃったのかなぁ」なんて思いながら慣れないお経を唱えたそうです。
 すると今度はインターホンの他にドアを激しく叩く音も響きました。
 さすがに怖くなった母は必死にお経を唱えました。
 唱え始めて数分が経ち、急に音がピタっと止まりました。まるで何も無かったかのように。
 ほっと胸を撫で下ろし、安堵する母の耳元で聞き覚えのない女の声がハッキリと聞こえたそうです。
「そんなの効かないよ」

朗読: モリジの怪奇怪談ラジオ
朗読: モリジの怪奇怪談ラジオ

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