【犬】
霧深い山道を車で走り続けていた時のことだ。
突然、犬が飛び出してきて轢いてしまった。
咄嗟に急ブレーキ。横たわっている犬に急いで駆け寄る。
犬は威嚇するように唸っていた。
ぐぉうぅぅぅがぁぇぇぇがぁぁぁ… おおぉぉぅぅぅがぁぁえぇぇぇがぁぁぁぁ
「えっ?」
犬の唸り声が、だんだん……。
おおぉぉぉまぁぁええがあぁぁぁぁ!! おーーーまーーーえーーーがーーー!!
【まだ入ってる】
管理会社からの依頼で、アパートの一室を掃除することになった。
部屋に入ると、とにかく汚くて臭い。 とくに匂いがひどい風呂場の扉を開けてみた。
「あっ、あぁ、スイマセン」
お風呂にはおばあさんが浸かっていた。 急いで扉を閉める。
いや、そんな馬鹿な。
この部屋に住んでいたお婆さんは、 そのお風呂場で死んだはずなのに……。
もう一度扉を開けて確認するか、どうしようか……そう思っていたら、内側から誰かがドア開けようとガタガタガタ! 急いでアパートから逃げ出した。
【元カノ】
彼氏と初めてのドライブデート。
長いトンネルに入った時に、ふと彼の顔を見た。
泣いている。目を大きく見開いて涙を流している。
「えっ? どうしたの?」
彼はチラチラとルームミラーで後ろを見ながら震えている。 私も振り返って確かめてみる。
クルマのトランクの上に、血まみれの女の顔が突き出していた。
「ギャッ」と叫んで私は彼にしがみついた。
彼が何かつぶやいている。
「ちゃんと埋めた……ちゃんと埋めたはずなんだ……」
【隣の子供】
うちのマンションのお隣りさんからは、いつも子供たちの騒ぐ声や、 それを叱るお母さんの怒鳴り声が響き渡っていた。
何日かしてふと、子供たちの騒ぐ声がしないことに気が付いた。
ある時、そのお母さんとすれ違った。
子供たち二人におんぶされ、相変わらず大変そうではある。
「最近こどもたちもすっかりおとなしくなりましたね」 そう声をかけた。
「いえ、ちょっと訳があって、田舎の母に預かってもらっているんです……」
彼女はそう答えて足早に去って行った。