笑うひまわり男

 これは3年前、私が初めて一人暮らしをした、築40年のアパートでのお話です。
 今思えば最初からその部屋だけ少し変だったのです。アパートを出るまでなぜ気づかなかったのかわかりません……。

 私の住んでたアパートは、上下左右4つの部屋が1セットの、2棟並んだアパートでした。 私の部屋は2階の左側でした。
 内装はリフォームされており、今風の壁紙やオシャレな照明で、初めての一人暮らしにワクワクしていました。
 社会人になってから10年もの間、職場の寮で暮らしていたので、不安など一切なく、ただただ一人が嬉しかったのです。
 私は昔から怖い話などが大好物だったので、おばけが怖いなどの感情もあまりありません。
 ある時、1階に住んでいるおばさんに声をかけられ、世間話をしていると、「そういえば、あなたの部屋はきれいにリフォームされてて良いねぇ。若い人向けの部屋になったね」 と言われ、このアパート全体がリフォームされた訳ではない事を知りました。
 先輩が家に遊びに来たときに、「古いけどオシャレな内装だね」と言われたので、「なんか、この部屋だけらしいですよ! 家賃も安いのに、運が良かったです!」と言うと、先輩から思いもしないことを言われました。
「ねぇ、もしかして事故物件とかじゃないよね……?」
「怖い思いもしてないし、そんな訳ないですってー!」
 言われた途端私は大笑いしました。本当にそんな事は微塵も思ってなかったからです。

 それから幾日か経ったあと、私は突然変な出来事に悩まされるようになりました。
 それは、毎朝起きると汗びっちょりになっていて、全身ひどい筋肉痛になっているのです。
 理由がわからなかったのですが、たかが筋肉痛、そして疲労感……。
 きっと仕事で知らぬ間にストレスがかかっているのだろうと思っていました。
 そんなある日の夜中、突然リビングで人が話している音が聞こえたかと思うと、びっくりするぐらい大きな声になったのです。
 私は寝起きでパニック状態でしたが、リビングには充電していたタブレットがある事を思い出し、タブレットに駆け寄ると、なぜかYouTubeの怪談が、音量MAXの状態で流れているのです。
 訳のわからぬままとりあえず音量を下げ、電源を消して、心臓はバクバクの状態でしたが、布団に戻り、次の日の為に眠りにつきました。
 次の日の夜中、突然目が覚めました。時刻は2時丁度でした。
 なんだかスッキリ目が覚めてしまったと思いながら、寝返りを打とうと体を動かそうとすると、 体が……重い。
 関節が固まってるように、動かそうとするとミシミシ、ギシギシと油をさしてない機械のようにしか動かない。
 そして、寒いくらいに汗をかいていることに気が付きました。
 とりあえずそのまま部屋を見渡すと、足元の方にあるタンスに目が行きました。
 うす暗いものの、タンスの中段くらいに、何かが動いてるのが見えました。
 一瞬、ソーラーパネルがついてる、サングラスをかけながら踊るお花のおもちゃが浮いてるのかと思いました。
 ダンシングフラワーって言うんでしたっけ? よくよく見てみると、それはお花のおもちゃではなく、人間の顔でした。
 それも、髪はボサボサ、ひげもぼうぼうの、おじさんの顔……。
 髪の毛と、ひげが長すぎて、くっついてる様に見えたので、お花のように見えたのかもしれません。
 そのおじさんは、目をほそめて口を開いて笑っているのです。
 そして、顔を左右に左右にリズミカルに傾けているのです。
 まるで太陽に向かって元気な笑顔を見せるひまわりの様でした。
 そんな事を思っていると、足元の方から、私の麻の布団カバーを踏み鳴らす音がして、何者かが枕の方に向かって、四足歩行で歩いてくるような感触がしてきました。
 重さは猫くらい。 空気がすごく気持ち悪い。
 そう思って、ギシギシに固まった関節を一つ一つ動かすようにして起き上がると、変な感触も、ひまわり男も消えていました。
 先輩の言っていたとおり事故物件だったのかもしれません。

 次の日盛塩をすると、その日から謎の筋肉痛も、タブレットの故障もひまわり男も見なくなりました。
 そして新しいアパートに引っ越しました。
 3年も経ってなぜその話を思い出したかと言いますと、 最近新しいアパートで何度か見るようになったのです。笑うひまわり男を。
 そして、笑うひまわり男の顔が、増えてるんです……少しずつ……。
 今はただ、何か悪い事が起きないように祈る事しか出来ません……。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ
朗読: かすみみたまの現世幻談チャンネル

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

閉じる