今から紹介する2つの話は、私と母がそれぞれ実際に体験した似たような話です。
まずは、数年前の夏に一人暮らしのアパートで、私が体験した話をさせていただきます。
その日夜勤の仕事が入っていたので、夕方から夜勤前まで仮眠をとろうとしていました。
私はよく寝ながら怪談朗読を聴くのですが、その日も怪談朗読を聴きながら布団に入って寝ようと目を閉じました。
ところが目を閉じて少しすると、ピンポーン、とチャイムが鳴りました。
私は基本的にアポなし訪問は居留守を使って出ないので、その日も無視して寝ようとしました。
ですが、チャイムの音は少し間隔を空けてしつこく鳴り続けます。
どうせN◯Kか宗教だろうと思いましたが、少し気になって、ドアスコープを覗きに行くことにしました。 その間もチャイムは鳴り続けています。
チャイムの音は押し方が悪いのか調子が悪いのか、たまにピ……ピン……ポーンと不明瞭で途切れがちな、ぎこちない音を響かせています。
こういった鳴り方は今までしたことがないし、無機質に鳴り続けるしつこさに少し不審に思いながら、私はドアスコープを覗きました。
しかし、そこに人の姿はありません。
ドアの横に隠れているのかな? と思い、ここまできたら姿を見てやろうと、チャイムが鳴り続けるドアの外をじっと息を潜めて見ていました。
相変わらず姿は見えず、少ししてチャイムも鳴り止んで静かになりました。
私の部屋はちょうど階段を降りるところが見える位置にあるのですが、いくら待っても誰も降りていきません……。
私はしびれを切らして、少しの恐怖はありましたが、チェーンは一応かけたまま思い切ってドアを開けました。
静まりかえって、人の気配がしません。
急に死角から飛び出してきたらどうしようと、ドアを開けたまま少し様子を伺った後、チェーンも外して外に出て確認しました。
ですが、やはり誰もいません。 不審者などではなくホッとしましたが、結局チャイムの音は謎でした……。
アパートへの出入りは一つの狭い階段でしか出来ないし、ボロくて安いアパートなので、足音もよほど忍び足でないとかなり響きます。
ちなみに最上階に住んでいるので上にも行けません。
目を離したのも鍵を開ける一瞬です。
忍者のように忍び足でかつ一瞬で階段を降りたのでしょうか……。
その時は誰もいなかったことに何故か恐怖はなくて、睡眠を妨害されたことに対する苛立ちの方があり、ブツブツ文句を言いながら部屋に戻ったのをよく覚えています。
この話を母にしたところ、母が中学生のときに体験したかなり昔の話で、似たような話を聞かせてくれました。
母の場合はチャイムではなくノックでした。
母が中学生の時、母の父、私からしたら祖父の家を建て直したそうです。
祖父の家が新しく建ってから、夕方になって辺りが暗くなる頃、裏口を誰かが激しくノックして、出たら誰もいないということが数日間ほどあったそうです。
祖父の家は美容院でもあり、祖母と祖父二人でお店を回していたので、毎回母が対応していたそうなのですが、誰もおらず最初はイタズラだと思っていたそうです。
しかし何日も続くので、ある日母は犯人を突き止めようとノックがされる時間に裏口で待機していました。
ドンドンドン!!
ノックが始まりました。
母はすかさず叩かれたばかりのドアを勢いよく開けました。
しかし誰もいません。
辺りは拓けた場所だし、ノックされてすぐ開けたので、逃げたなら姿くらい見えるはずなのに…。
さすがに気味が悪くなって、その日母は祖母にノックのことを話しました。
すると、祖母はそれはもしかしたら、家が建つ前に亡くなった曾祖父、つまり母のおじいちゃんじゃないかなと言ったそうです。
曾祖父は新しく家が建つのをとても楽しみにしていたらしく、裏口をドンドンドン! と激しくノックするのも、曾祖父が生前帰宅時によくしてたらしいのです。
その日を境にノックはされなくなったそうです。
以上が母の体験です。
私は母の話を聞いてふと思いました。 母の家に訪ねてきたのはおそらく曾祖父。
では私の部屋に訪ねてきたのは誰なのでしょう?
その年は私の祖母が亡くなった年だったので、もしかしたらと思いましたが、祖母は私のアパートに来たことはありません。
不思議と恐怖を感じなかったので、何となく悪い霊ではない気はします。
もしかしたら祖母かもしれないし、別の話で以前投稿させていただいた、この部屋で見たギャルの幽霊なのでしょうか……。
霊感のない私には誰が訪ねて来たのかは、未だに分かりません。