呼び出しボタン

 これは一年前の話です。

 その夜は寝付きが悪く布団に入ってから寝ることができずにスマホをいじっていました。
 長い間、ツイッターなどを見ていると時間が気になり、確認すると午前一時を過ぎていて明日も学校なのに寝なきゃやばい……と思いつつも、まぁこういう日もあるよねと眠たくないので気にせずに触り続けることにしました。
 今思えばこの時にスマホを閉じて無理やりにでも寝ていれば、怖い思いはしていなかったのかなと思います。
 動画を停止し、まだ寝れそうにないので何か飲み物でも取りに行こうかと部屋から出るためドアノブに手をかけたとき、言い表すことが出来ない気持ち悪さが急に沸き上がってきました。
 なぜだかわかりませんが、この時私は意地でも廊下に行きたくなかったし、この部屋から出てはいけないと直感で感じました。
 とてつもない嫌悪感と恐怖におかしい思いましたが、飲み物どころではなくなったのでまたベットに戻りスマホを触ろうと布団にもぐった時、それは始まりました。
 …ピンポーーン…ピンポーーン…ピンポーーン…ピンポーーン
 唐突に弟が集めていたカプセルトイの、ファミレスの呼び出し音が静まり返った家の中に響き渡りました。
 私はとっさに起き上がりドアの隙間から廊下に光が灯っていないかを確認しました。というのも廊下は人感センサーがついていて人がいれば電気がついているはずだからです。
 願い叶わず、結果は残念なことに真っ暗でした。
 そんなことをしている間にも呼び出し音はなり続けており、誰か起きてきてくれないかだとか考えても、こういう日に限って起きているのは私一人だけで、廊下に何か得体の知れないやつがいるであろうこと、急になり始めるだけでも怖いのに間延びしたピンポーンという音が後半に行くにつれてビビビビビビという連打音に変わることがさらに不安を煽り、怖すぎて泣きそうになりました。
 時間を確認すると午前三時。
 そこから十分間、一拍おいて鳴らすからの壊れたように連打というコンボが続き、あんなに怖がっていたのに最初の恐怖はどこへやら十分経つ頃には慣れ、深夜帯に馬鹿でかい音を鳴らし続ける得体の知れない何かに対してものすごく腹が立っていました。
 そこで、寝る前に見た呼び出しボタンを思い出し廊下に出て思いっきり蹴飛ばしてうるせぇ! と怒鳴りつけようと思ったのですが、相手がそれを望んでこれをやっているのだとしたら出ていくのは良くないし、仮に蹴飛ばして部屋に戻ってくるときに入ってこられたらどうしようと考えてビビってしまい、あれやこれやと考えてるうちに気が付いたら寝落ちし、朝になっていました。
 廊下にある昨日のボタンにタイマー設定などが無いことを確かめ、母に昨日これが勝手になっていたんだと説明した所、案の定知らなかったと言われました。
 こんな風に鳴っていたんだよと実践しようと押した時、私は気が付きました。
 この呼び出しボタン何回連打しても昨日の壊れたようなビビビビビという音がなりません。
 どれだけ挑戦しても私では再現できずどれだけ私を呼び出したかったんだよ……と少し感心してしまいました。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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