これは私が小学3年生のときにあった本当の話。
学校から帰った後、近くの公園で友達と遊んでいた私は、 夕方になったので家に帰ることにしました。
友達と別れ、一人でトボトボ家に向かいます。
私の背よりも高いススキの穂が連なる草むらの横を歩いている時、 ダンボールの箱が路肩に置いてあるのに気が付きました。
そしてそこからミャーミャーと鳴き声がしています。
「猫だ!」
私はすぐに駆け寄って中を覗き込みました。
中にはまだ目も開いていないような生まれて間もない仔猫が数匹動いていました。
かわいい、連れて帰りたい。そう思いましたが、 うちにはすでに犬もおり、ペットを飼って良いか母に相談しなければなりません。
そこからダッシュで家に向かいました。
家に着くともう夕飯の支度が済んでおり、 先にご飯を食べなさいと母に言われました。
急いで仔猫の元に戻りたい私は少々駄々をこねましたが許してもらえず、 ご飯を食べながら仔猫の話を母にしました。
最初はダメだと言っていた母も、もともとは動物好きなこともあり、 私が責任をもって育てるなら良いと認めてくれました。
うれしくなり、急いでご飯を食べて仔猫の元に行こうとしましたが、 日の暮れるのも早く、外はだんだん暗くなってきていました。
そこで父の持っている大きな懐中電灯を借りて仔猫の元まで行くことにしました。
しばらくしてあのススキの原っぱのある道に差し掛かりました。
ダンボール箱を目指していた私は「あっ!」と思いました。 先客がいるのです。
昔のもんぺ姿をしたお婆さんがダンボールの前にしゃがみ込んでいます。
「あ~、お婆さんにみんな連れていかれちゃうのかな~」と思いながら、 私はちょっと電柱の陰に隠れてその様子を見ていました。
すると突然、バリっボリっとなにかを砕くような音が聞こえました。
それはお婆さんの方からします。 私は思わず懐中電灯をお婆さんに向けていました。
背中を向けていたお婆さんがそれに気づき、こちらをくるりと振り返ると……。
「きゃあ!!」
私はあまりの事に叫んでいました。
こっちを向いたおばあさんの目は、まるで猫のように一瞬キラリとひかり、 その口からは仔猫の首から下が垂れ下がっているのです。
口の周りには血のようなものがベットリついています。
お婆さんはこちらを向いたまま、微動だにせず、 咥えた仔猫をズルズルと飲み込んでいきました。
そして一匹を食べ終わると袖で口を拭い、バっとジャンプするかのようにして ススキの茂みの中に消えていきました。
ザザザっという走る音だけが聞こえます。 私は体が固まって動けなくなっていましたが、しばらくして静寂が戻って来たので 仔猫たちが心配になり段ボールに駆け寄りました。
そこには、血の付いた仔猫のしっぽやちぎれた足、あるいは骨や皮の断片があるだけ。
それを見て震えあがっていると、ススキの茂みからガサっと音がしました。 驚いて懐中電灯を向けるとそこには大きな猫の目のような光が!
私はきゃー! と叫びながら猛ダッシュでその場から逃げました。
泣き叫んで家に帰った私を見て、父がいぶかしげな表情をしながら 「パトロールに行ってくる」といって私から懐中電灯をもぎ取り、外へ出ていきました。
しばらくして帰って来た父に様子を聞くと、何もいなかったし、 そもそもそんなダンボールもなかったと言いました。
あれは私の見た幻だったのでしょうか。
それ以来、私は草むらが怖くなり、 仔猫を見るのも恐ろしくなってしまいました。
猫が大好きなのに、この一件でトラウマになってしまいました。