一卵性双生児

 会社務めのSさんにはある悩みがあった。
 それは二人の一卵性双生児である高校生の娘達の事だ。
 見た目もそっくりで息もピッタリ、二人とも別行動で買い物をしたのに全く同じ物を買ってくる何ていう事も、もはや日常茶飯事になりつつある。
 とまあそこまでならまだ良かったのだが、どうも二人には他の人たちと少し、いやだいぶ変わっている事があった。
 それは、所謂視える人、というやつらしいのだ。

 以前、家で友人から電話があり、それをスピーカーにして会話していた時に、こんな事があった。
『すまん! 今急用ができちまってそっちに行けなくなっちまった、娘ちゃん達の誕生日パーティには行けそうにない、悪いが謝っといてくれ、プレゼントは買ってあるからまた後日渡すよ、じゃ、じゃあな!』
「あ、おい」
 Sさんが慌てて聞き返すが電話はそこで切れてしまった。
 すると、近くにいた娘達がSさんの側にやってきた。
「ねぇねぇ今の誰?」
「だ、誰ってお前らも聞いてただろ?」
「そうじゃなくて、まあちゃん、まあちゃんって苦しそうに名前呼んでた人」 「まあちゃん? そんなの聞こえなかったぞ? 何言ってるんだお前たち」
「ええ、聞こえたよお、聞こえたよねえ?」
「うん聞こえたあ、お父さん耳遠くなったんじゃない?」
 等と二人揃って同じ声でSさんをからかうように言ってきた。

 何かの冗談かと思いつつも気になったSさんは、後日友人にその事を話すと、友人は驚きながらこんな事を話してくれた。
『そ、それこの間事故にあった飲み屋のママが言ってた俺の呼び名だよ! な、なんでお前の娘ちゃん達がそんな事知ってるんだ? あの後ママさん亡くなっちまったんだ……』
 そこまで聞いてSさんは血の気が引く思いだったという。
 他にも、自分と妻には見えていない物が二人には見えているような事を言ってきたりと、こんな事が多々あったのだ。
 そして極めつけは、先日娘が慌てて帰宅してきた時に話してくれた事だ。
「へ、変なのに追いかけられたのお父さん!」
「なにい!? へ、変質者か!?」
 勢いよくソファーから立ち上がると、娘が息を整えながら口を開く。
「お、女の人! 血だらけでボロボロの服着てて、右足しかないのにこうやって……追いかけてきたの!」
 そう言って娘は左足を上げて後ろに回し、右足だけで立ちカカシのような真似をしだした。
「は、はあっ?」
 思わず唖然としていると、もう一人の娘もバタバタと慌てた様子で帰ってきた。
「こ、怖かったああ! 変な女に追いかけられたの! ひ、左足しかなくて、こんな格好で追いかけて来て」
「それってボロボロの服着てて血だらけの女!?」
「うんそう! お姉ちゃんも見たの!?」
「う、うん、見たけど私のは右足しかなかったよ?」
「えええ、」
 目の前でああじゃないこうじゃないと言い合う娘達の会話を目のあたりにし、Sさんの頭の中は混乱しきりだった。
 すると、玄関から再びドアが開く音がし妻が慌てた様子で姿を現した。 まさかお前まで……。
 そんな悪夢のような考えがSさんの頭を過ぎる中、奥さんは一息付きながら口を開く。
「か、買い物遅くなっちゃった……やだもうこんな時間、急いで晩御飯の支度するから!」
 そう言って奥さんは買い物袋をキッチンに置いてエプロンを身に付ける。
「お、おう……」
 Sさんはホッと胸を撫で下ろし、娘達に早く着替えて来いと促した。

 以上がSさんの今の悩みだったのが、休日の昼間、居間で妻とテレビを観ている時にこんな事があった。
『今日未明、〇〇市の林で身元不明の女性の遺体が発見されました。遺体には切り傷があり、両足が切断されている状態で発見され、警察は……』
 テレビの司会者がニュースを伝える中、Sさんの目に信じられないものが映った。
 近所だ。 歩いて十五分程行った場所にある見慣れた林だった。
 そういえばさっきからヘリコプターがよく飛んでるなとSさんは思っていた、なるほどと一人納得していたその時。
 向かい側に座りテレビを観ていた妻がボソリと言った。
「やっぱりね……」
 その一言を聞いてSさんはゾクリと肩を震わせた。
 あの日、娘達が視たもの……そして何事もなかったように慌てて帰って来た妻の姿……。
 Sさんは今も、新たな悩みが増えたと、会社の同僚に愚痴を零しているらしい。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ
朗読: 小麦。の朗読ちゃんねる
朗読: かすみみたまの現世幻談チャンネル

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

閉じる