これは私が三、四年ほど前に体験した出来事です。
日中、私は仕事で車の運転をしている時、用を足したくなってしまったので道中に見つけたコンビニでトイレを借りることにしました。
私がコンビニに入ったところ、ちょうど間が悪いことに五、六十代くらいの男性がトイレに入っていくのが見えました。
これは一足遅かったなと思い仕方なく雑誌コーナーの前でその男性が出てくるまで待つことにしました。
しかし、その男性がトイレに入ってから10分近く経ってもなかなか出てくる気配がありませんでした。
私が雑誌を読みながら足元をソワソワさせていると、後ろから大柄の顔色が少し悪い男性が入店してきました。
その大柄の男性は私の背後を通り越して真っ直ぐトイレの通路に向かって行きました。
どうせその男性もトイレに入れないから、戻って来たら「並んでますよ」とひとこと言っておこうと思い、その男性に目をやっていました。
大柄の男性はのそのそと手前の扉まで近づくと、そのままそこをスルーして奥のどんつきまで歩き、そこでスッと横に折れて私の視界から消えました。
私は予想外の出来事にアレッ? と思い、男性の後を追いました。
すると遠めからは直線だと思っていた通路が実は微妙に奥行きがあり、右に曲がれる様になっていて、そこにはもう一部屋トイレが設けられていたのでした。
私はそれを見て呆気に取られたのと同時に悔しさが込み上げてきました。
ちゃんと確認しなかった自分もいけないのですが、紛らわしいこの間取りと無駄に時間を使わされたことにイライラしながら雑誌コーナーの前まで戻りました。
その際、私はふとある違和感を感じました。
手前の方のトイレの扉、鍵の表示は赤で一見ロックがかかっている様に見えたのですが、よく見ると扉の隙間が空いているのでした。
隙間から少し覗いてみると、鍵の棒が枠の中にちゃんと収まっていませんでした。
私はまさかと思い試しに指先で扉をちょんと押してみると、ゆっくりと奥まで開きました。
そしてその中には誰も入っていませんでした。
なんだかよく分からなかったのですが、とにかくもう漏れる寸前だったのでその時は何も考えずに急いで用を足しました。
やっと苦しみから解放された私はさっさと手を洗い、辺りを見回しました。
店内には品出しをしてる店員さんが一人いるだけで、他のお客さんはいませんでした。
外を見てみても先程いた男性らしき人物は見当たりません。
私はもう一度奥のトイレを見に行きました。
そこにはしっかりと鍵がかかった扉があるだけでした。
もちろん店の関係者が利用する出入口が他にある訳ではありません。
男女兼用トイレが二つあるだけです。
では今このトイレの中にいる人は一体誰なんだろうか?
私はそのまま誰が出てくるか待ってみようと一瞬思いましたが、流石に仕事中で時間も惜しかったので適当に飲み物を買って店を出ました。
それでもどうも気になるので車に戻って車内からしばらく様子を伺っていたのですが、一向に出てくる気配が無かったので私は痺れを切らしてその場を後にしました。
結局、最初にトイレに入っていった男性がどこに消えたのかは分からずじまいです。
あの日あの時間帯の監視カメラを覗かせて貰えれば真相が分かるかもしれません。
以上、これが私が体験した少し奇妙な出来事でした。