ICUのゴースト

「先生、患者の容体急変です! すぐICU入室お願いします」
 ボクのピッチが集中治療室へ入れとがなり立てたのは、 午後の休憩時間の時だった。
 患者は4日前に救急車で運び込まれてきた男児である。
 第2病日(びょうじつ)より40度の発熱。 第3病日より下痢を認め、血圧も低下。
  第4病日からは応答不良となり、痙攣を伴う発作が表れたためICU入室となった。
「意識レベルGCS6、体温42度、脈拍141、呼吸数39…」
 患者の状態が報告される。 全身には潮紅(ちょうこう)、眼球結膜充血も見られる。
 静脈血液ガス分析を行い、頭部CTに入る。 痙攣を抑えるためにジアゼパムを静注したが 5分とたたずまた発作が起こる。
「ホスフェニトインを22.5mg静注、脳波モニタリングして!」
 「気管挿管! 人工呼吸器管理を開始します!」
「NAD、AVP投与開始」
 ICU室内が騒然とした戦場となっている時、 ボクは一瞬動きが止まった。
 部屋の片隅に男の子が立っているのである。
 薄っすらと青白く輝いているように見えたその子の顔は、 明らかに今、ベッドに横たわっている彼の顔だ。
 しかもその青白い子とベッドに横たわる子は、 細い紐のようなもので頭同志が繋がっているようだった。
 瞬間ボクは「早く自分の身体に戻りなさい!」 と、部屋の片隅に向かって怒鳴っていた。
 一瞬、スタッフたちの動きがビクっとして止まったが、 なんでもないとその場を繕い、治療を進めさせた。
 部屋の片隅にいた青白い子供ももう消えていた。
 ボクはオカルトを信じたことはなかったが、 アレを見た瞬間、これは魂が離れようとしているのではないか、 と思い、ついあんな言葉が咄嗟に出てしまったのだ。

 その後、この患者は徐々に回復し、後遺症は残ったものの命に別状はなく、 リハビリの結果、第56病日には退院することができた。
 この一件があってからと言うもの、 ボクは寺や神社、教会等へよく行くようになった。
 次にまた同じようなケースに当たった時に、 もっとうまく対処できる方法がないか、模索中というわけだ。

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