肝試しの果てに

 これは、かなり古い話になります。

 1984年の夏の出来事でした。
 当時わたしは高校を卒業し、F県の専門学校に入学しました。
 その専門学校は、高等科『中卒』専門科『高卒』のコースがあり、当時は県内外・全国各地からの問題児も受け入れ、収容施設的な役割も兼ね、工業系の国家資格を習得する為『構成して手に職をつける』の技能学校でした。
 地元に置いておくと良くない者の受け入れ先とでも申しましょうか?
 学校の傍には古びた寮もあり、わたしは、当初その寮に入寮していましたが、自分の時間も欲しいので、3キロほど離れたK市にあり、隣にコンビニがある当時では利便性のよいアパートに引っ越しました。
 しかし、寝るとき以外は、気の合う寮のメンバーと暇つぶしをするため、行き来しながら遊ぶ日々でした。

 ある日先輩に、新しいキレイな寮から、最近「わたしの入学前に」この寮に移されたと聞き、「何で?」と問いかけると、幽霊が頻繁に出るから廃寮となったと聞かされました。
 何でも、夜に共同トイレに行き、ドアを空けると見知らぬ少年が立ち小便をしていたり、建物がL字の構造なので、窓越しに向こうから歩いてくる人影を見て歩いて行っても誰もいなかったり、屋根の上を歩く足音や、金縛りが頻繁におきたり、やたらにからすや猫が集まってきたりと、気味悪がって寮を出る者が多いため、廃寮になったと聞かされました。
 いわくつきの土地にたてたからとの噂でした。
 皆、ヤンチャ盛りな若者なので「面白そうだ!」と、早速わたしとTの2人は、深夜でしたが、場所を確認し、先輩の制止もよそに1台のバイクに2ケツをして、目的地に向かいました。
 しかし、わかりやすい場所にある廃寮には全くたどり着けません。
 何度も同じ、見通しの良い農道十字路に導かれるように出てしまいます。
 月明かりに照らされた稲穂が、風に穏やかになびいており、民家の灯りや街灯もない十字路にバイクを止め、エンジンを切り「どうする?」となりました。
 農道十字路にはなぜか死亡事故多発の看板が立てられており、「こんな見通しの良い道路なのに不思議だな~」と考えていると、深夜にも関わらず何処からか、クラシック音楽のような音色が聞こえてきました。
 するとTが、「あれ? 稲穂の上を白いワンピースの女がスーと滑るように歩いている」と言いだし、指差す方向をわたしも見ましたが、私には見えません。
 気味が悪いので、もうかえるべ、となり、Tの運転でわたしのアパート方面を目指しバイクを走らせました。
 すると、バイクは突き当たった道の、明らかに違う山に向かう道を選択し、山に向かって徐々にスピードを上げながら向かっていきます。
 わたしは異常を感じ、後から何度も止めろと叫びましたが、応答が無いので、頭を小突いてやったところ、ようやくバイクが止まりました。
 わたしは切れ気味に「何をやってんだ?」と怒鳴りつけたところ、十字路から出発してすぐあたりからの記憶が無いとのことで、コリャ~ヤバイとなり、安全運転で声をかけながら街の明かりを目指し走っていると、突然バイクのライトに映し出されたのは、こちらに向かってくるオッサンが運転する無灯火の古い自転車です!
 周りにはなにもない場所で、こんな時間に? しかも山に向かって? すれ違いざま、うつむいていたオッサンは顔を上げ、にた~っと笑いすれ違いました。
 わたしはゾクゾクし、「気持ち悪いオッサンだったなー」と言うと、Tは「そんなの見ていないよ」と言いました。
 何とかアパートに到着し、部屋に入りTと今までの不思議な事を語り合っていると、隣の部屋で寝ていた居候のSが起きだし、不機嫌に「なんだよ!」と言ってきました。
「悪ぃ! うるさかったか?」というと、身体を手でごろごろと転がされ、起こされたと言うのです。
 コリャ~連れてきちまったか? となり、恐くなり皆がいる寮に移動することになりました。
 わたしの50CCの原チャリ、ノーマルのヤマハアクティブ・2人が所有する400CCの、カワサキGPZとホンダのCBRの、かなり早く走れるようにチューニングをした族車のバイクに各々が乗り、3台でアパートを出て、寮に行くための道を進み、阿武隈川に架かる大きな橋にさしかかると、またもやおかしな事が……。
 わたしは気付かなかったのですが、原チャリのわたしにクラクションをならして慌てた2人のバイクに挟まれ、止まれと手で合図されました。
 何でも、ヤケに速いなと思い、ついていっても、みるみるわたしにはなされて行くばかりで、メーターを見ると100キロ以上スピードがでており、慌てて猛追して追いついたとのことでした。
 そもそも、当時の原チャリは60キロも出ないので、これも意味がわかりません。
 何とか寮に行き、皆を起こして経緯を説明しましたが信じて貰えず、取り敢えず明るくなったら皆で、学校には行かずに閉鎖寮に確認しに行く事になりました。
 難なく皆と閉鎖寮に到着し、周りを歩き回り、窓から中を伺ったりしましたが、何の変哲も無いただの空き物件でした。

 その日の夜、心細かったわたしは寮の数名をアパートに招き、話をしたりしておりました。
 夜も更けてくると、寮から来ていたYが突然泡をふいて、もんどり打って後ろに倒れ、置いてあっヘルメットに頭を打ち気を失い、外に併設されている鉄製の階段を上り下りする音などもあり、慌てて周囲を伺い、窓から外を見ると複数の影のような者がゆらゆらと、アパートにむかっ来ているのが見えました。
 部屋中にラップ音が鳴り出し、外の鉄の階段を登りをりする音も大きくなる!
 コリャーまずいとなったとき、Tが立ち上がり、俺がなんとかしてみると、隣の部屋に引き戸を締めて入って行きました。 後から聞いて知った話ですが、Tの婆さんはおがみやをしていたらしく、お経のようなものは見よう見まねで出来たそうです。
 昨日までは、そんな体験はしたことはなかったみたいで、正に覚醒したみたいでした。

 ここからの話はTから聞いた話です。
 正座をし、締めきった灯りの無い隣室中央で、お経を唱えはじめると、ぐるぐると複数の気配が自分の周りを回りながら、『なぜ来た?』『来るなー』『死ね』などと問いかけたり、言ってきた。
 集中し、お経を唱え終わるまでそれは続いたが、唱え終わると気配は消えていたそうです。
 目をあけ気付いたら、180度回転させられていたとのことでした。
 隣の部屋からTが戻ると、確かにラップ音などは収まっていましたが、夜明けまでイケイケヤンチャの者達は震えて口数少なく、泣いている者さえいました。
 夜が明けて明るくなり、皆は眠気でようやく眠り、おきだしたのはお昼過ぎとなり、念のためにお祓いに行くべとなりました。
 K市にある、由緒正しき大きな神社に皆で、お祓いに行くことになり、鳥居をくぐった間際、正に晴天にわかに掻き曇りと言う言い回しのような、激しい雷雨に見舞われました。
 受付で事情を説明しましたが、全く信じて貰えず、取り敢えずお祓いはしましょうとなり、神殿に導かれ、お祓いが始まりました。
 まるで激しい雷雲は、神社の上に停滞しているようで、強い雨とフラッシュのような稲光が中にいても感じられます。
 薄目を開けると、鏡が置かれている御祭殿?に稲光のたびに、杖を持った人影が浮かび上がるのをわたしは見ました。
 頭を怪我したYも、薄目で周りを見ていたところ、自分を含めて皆が前屈みに段々となっていき、背中から肩を押さえながら黒い影が『にゅ~っと』出ていくのが見えたといっていました。
 お祓いが終わると、雷雲も過ぎ去り、綺麗な夕焼けに包まれ神社をさりました。
 一応、お札みたいなものを頂き、アパートにはりつけてからは何も起こらず、以前の日常に戻れました。

 それ以降は変なことや、変なもの見たり、変な音も無くなったのですが、不思議な事があるものだと、しみじみと思います。
 安易に肝試しなどするものではないと、今でも反省しております。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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