あの子は誰?

 私が保育園の年長さんくらいの話です。

 当時、私は所謂「下町」に住んでいて、凄く子供の多い地域に住んでいました。
 周りは殆どが両親共働きの家が多く、中学生くらいのお姉さんやお兄さんが自分の兄弟姉妹を連れて近くの公園で遊ばせており、 私も近所の子に混じって遊んでいました。
 その中に「ミナミちゃん」という女の子がいました。
 ミナミちゃんは日焼けをした少し褐色の肌色で髪は天然パーマなのか、クルクルのふわふわ。
 いつもその髪をツインテールにしていてお人形さんみたく可愛い子でした。
 ミナミちゃんはいつも上が無地の赤、下が赤のギンガムチェックのノースリーブワンピースを着ていて、 子供の頃の私は違和感を持ってなかったのですが、大人になった今考えると、 1年を通して毎日同じ服を着てるって違和感しかないなと思いました。
 ミナミちゃんは優しく、誰とでも仲良くなるタイプでいつもニコニコしていました。
 ただ、私の記憶からはミナミちゃんの「声」は消えていて、 ミナミちゃんがどんな声で話したり笑ったりしてたのか一切思い出せません。
 ただ、「ミナミちゃん」という名前は覚えているから、 少なくとも自己紹介はしているとは思います。
 ミナミちゃんと、何回か私の家の前の駐車場で遊んだりもした記憶があったので、 母に「ミナミちゃんって覚えてる?」と聞いたところ、 「ミナミちゃんって誰? カズコちゃんなら覚えているけど」と言われました。
 私の言うミナミちゃんと母の言うカズコちゃんは話をする限り、同一人物です。
 きっと、母の思い違いだろうとその時は思ったのですが……。

 ある日、たまたま、当時同じ地元に住んでいた友人にばったりショッピングセンターで会い、 ミナミちゃんの事を聞きました。
 すると、その友達は「ミナミちゃん? モモちゃんじゃなくて?」といいます。
 ここでもミナミちゃんとモモちゃんは同一人物のようです。
 少し不思議な気持ちになった私は、当時遊んでいて、連絡の取れる友達3人に ミナミちゃんのことを聞いたところ、ユキちゃん、さやかちゃん、ヤヨイちゃんと、同一人物なのに、それぞれが違う名前を言うのです。

 一体、ミナミちゃんは誰なのでしょう。
 みんなの記憶の中にいるミナミちゃんは、ミナミちゃんであってミナミちゃんではないのです。
 怖くてそれ以上、ミナミちゃんの事は聞けてません。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ
朗読: かすみみたまの現世幻談チャンネル

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