お父さん

 私の母は霊感があり、時々触られたり声をかけられたり、姿を見たりしていました。
 しかし、お祓いなどはできないので、そっとしておくようにしているとのことでした。
 そんな母が、私が小学5年生のときに話してくれたお話です。

 私の父は自営業をしており、工場を持っています。
 その工場の2階に事務所があり、私の父はそこで夕飯を食べてから家に帰ってくるという生活をしています。
 いつも夕飯を食べ少し仮眠をとってから帰ってくるのですが、その日は寝入ってしまったようで、中々帰ってきませんでした。
 時々そんな日があるので、特に気に留めず、私たちは寝ることにしました。
 私の家は鉄の門があり、そこを開けてから駐車場、そして玄関に繋がります。
 門を開けるのも駐車場に入るのも、玄関を開けるのも音が聞こえるので、帰ってくると音で帰宅したことがわかります。
 私が深く眠りについているころ、夜中の3時ごろにその門が開く音が聞こえ、母は目を覚ましたそうです。
 駐車場に車が入ってくる音、玄関が開く音がし、父が帰ってきたようでした。
 私たちが寝ている部屋に入ってきた父は、鞄をおいていつものように過ごしていたそうですが、母は何か違和感を感じ、寝たふりをしていました。
 何が違うと感じたのかはわからなかったそうですが、何か「父では無い」と直感的に思ったそうです。
 父は寝ている母を起こそうと、「ママ、帰ってきたよ。ママ、起きて。帰ってきたよ」と、何度も声をかけられゆすられたそうですが、絶対に答えてはいけないと思い、寝たふりを続けていたそうです。
 すると父は「もういいよ。お風呂にいくよ」と言うとお風呂の方に向かっていったそうで、そこでやっと起き上がり周りを見ましたが、いつも置いてあるところに鞄はなく、駐車場にも車はありませんでした。
 やはりあれは父では無かったのかと思っていると、また門が開く音がして、駐車場に車を停める音、玄関が開く音がしました。
 その時は何にも違和感を感じることはなく、本当に父が帰ってきた様で、いつものところに鞄を置き私たちの部屋に入ってきた父は、まだ起きている母を見て、「まだ起きていたのか」と驚いている様子だったそうです。
 しばらく父を見て本当の父だとわかった様で、そこでやっと声を出したそうです。

 一度帰ってきた者は何者だったのか未だに謎で、これといったオチはありませんが、時々私が住む家にはこのような不思議な出来事が起こります。

朗読: かすみみたまの現世幻談チャンネル

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